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続・あなたの色に染められて

第6章 すれ違い


『京介ー!』

ヤバイ竜兄だ。

俺と沙希の顔が一瞬固まったそのとき竜兄は息を切らして駐車場に駆け込んできた。

『どうしたの?そんなに慌てて。』

こんなときでも平静を装えるのが女なのか それとも百面相の沙希だからか

『ハァハァ…香織の陣痛が…始まった。』

差し出された手のひらに俺が乗り回していた営業車の鍵を落とすと竜兄らしい柔らかな笑顔を浮かべて

『璃子ちゃんにも伝えておいて。』

『あぁ。』

『私からも香織さんに頑張ってって伝えて。それと…。』

『なんだよ!』

『…おめでとう二児のパパさん。』

『おぅ!』

竜兄は手を挙げると颯爽と車に乗り込み車を発進させた。

テールランプの赤が微笑んだままの沙希の顔を照らす。

沙希はクスリと笑うと

『伝えてたら和希のときも急いで病院に駆けつけてくれたかな。』

『沙希…。』

『無理だよね。私のことなんて気まぐれで抱いただけだから。』

おまえはズルいよ。俺の前でだけそうやって儚げに微笑むから

『たった一回の出来心で父親になったなんて普通なら考えもしないもんね。』

空を見上げながら笑う沙希に俺は掛ける言葉がない。

若気の至りっていうか たぶんお互い魔が差したんだと思う。

若い二人が酔っ払って破目を外してしまったっていうよく聞く話。でも代償が大きすぎた。

沙希はそのとき付き合っていた10歳年上の職場の上司の子だと思いそのまま授かり婚

でも育てていくうちに何となく違和感を感じたという。

そしてダンナさんが急な病で倒れて沙希と和希を残して旅立つとさらに違和感を感じ

俺との偶然の再会で竜兄に逢ってみると確信に変わったという。

さりげない仕草や笑った顔 まるで幼い頃の竜兄を見ているようだと錯覚したと

『竜兄に認知してもらいたいの?』

踏み込んだ発言だとは思ったけど そろそろ決着をつけなきゃいけない。

『ううん それは考えてない。別に竜兄に特別な感情があったわけじゃないから。』

『じゃあなんで…。』

抱かれたんだと沙希の瞳に答えを探すとニコリと微笑んで

『京介だと思って抱かれたの。』

『は?』

『ずっとあなたが…。』

潤みはじめた瞳から一滴の雫が頬をスーっと流れ落ちると

『京介のことが好きだったの。』

電灯がたった1つ付いている何にもない駐車場で沙希は俺を抱きしめた。

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