
続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
『こういうのやめて。』
沙希の体を引き離すとグッと睨み上げてくる瞳を見据えて
『俺はおまえにそんな感情 微塵も抱いたことねぇから。』
優しくしてやれば調子に乗りやがって
『竜兄にDNA検査を頼むなら間に入ってやる。その代わり沙希が竜兄と同じ分だけリスクを背負えるならの話だ。』
俯く沙希に冷たいことを言ってるのかもしれない。
でも ずっと迷ってたんだ。
竜兄は自業自得だけど 酒蔵のために璃子と同じように必死で伝統を守ってくれる香織さんに申し訳ないとか
璃子にこれ以上負担をかけたくないとか
でも そのすべてが全部俺の独りよがりだった。
『ずっと俺を見てきた沙希ならわかるだろ?俺がどれだけ璃子を必要としてるか。』
もう璃子を泣かすわけにはいかないんだ。
『アイツは俺のすべてなんだ。』
それなのにおまえは
『わかってるよそんなこと。』
俺たちの苦労なんて微塵も分かっていないように微笑んだ。
『痛いっ!』
『いい加減にしろよ。』
その微笑みがずっと我慢していた俺の心に火を着けた。
『自分が良ければそれでいいのか!アイツは…璃子は自分から身を引こうとまでしたんだぞ!』
女相手に胸ぐら掴むなんて俺はどうかしてる。
『やっと璃子と一緒になれたんだよ。それなのに…』
昨晩の璃子は抱きしめているのに俺を求めていなくて 今朝はそれをカバーするように不自然に俺を求めて
『何で俺の前に現れたんだよ!』
それに 今ここで和希のことが表立てば若気の至りとはいえ それこそ沙希だって兄貴だって今までのようには振る舞えなくなる。
『自分の都合を子供に押し付けるなよ!』
始めて会ったあの日、和希はリビングに無造作に置かれたバットとボールを見て目を輝かせていた。
野球が好きかと尋ねたら満面の笑みで首を縦に振ったんだ。
野球しか知らない俺たちはその瞳に応えたいとなんとか親父に話をつけて沙希を酒蔵の事務に迎え入れたのに
『和希を使ってまで…』
子供は俺たち大人の都合で生きる道が決まる。
子供にはなんの罪もない
夢と希望を小さな手に持って産声を上げたはずなのに
『だって…。』
それを利用するなんて
『欲しくて出来た子じゃ…』
『ふざけるな!』
~♪~♪
叫んだ瞬間に鳴り響く俺のスマホ
ディスプレイに表示された名前はあの風間だった。
