
続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
『歩ける?』
崩れるように膝を付いたキミの手を取りボクは歩き出した。
『ゴメンね…ゴメンね…。』
何度も何度も謝りながらポロポロと涙を溢すキミの手は思っていたよりも小さくて
『いいから。』
ボクの心を揺さぶった。
別に盗み聞きしていた訳じゃない。
本当にただスジを通したかっただけなんだ。
だってその話を耳にするまでは キミは心底愛されてるって思ってたんだから。
昼休み珍しく一人だというキミと初めてランチに行った。
酒蔵の近所のどこにでもあるファミレス。
キミはボクと同じ日替わりランチを頼んだのにほとんど手を付けなかったよな。
なんかあったのかと聞けば寂しそうに微笑みながら
「昨日 変な噂を聞いちゃって。」
なんて珍しく肩を落としながら溜め息をこぼした。
内容を聞けば笑ってしまうほどあり得ない話。
「アハハハ!まさか 和希くんが京介さんの息子だなんて。」
キミはボクが笑うと「笑い事じゃない!」と 頬を膨らませながら箸を手に取りプイッと横を向きながらエビフライを口にした。
でも さっき駐車場のそばで耳にした話はボクたちが昼間笑い飛ばしたあのあり得ない話。
キミは声が聞こえる度に身を小さくして
「…大丈夫大丈夫。」
と まるで呪文のように唱えて愛する人の言葉を最後の最後まで信じて耳を傾けていた。
でも 最後の台詞を耳にしたときキミは愛する人の名を小さな声で呟き崩れるように膝を付いたんだ。
それと同時にボクらの後ろから竜介さんの声が聞こえたから 咄嗟にキミの手を取って明日の荷物を積み終わったばかりのボクの車がある中庭に急いだ。
助手席に乗せるとキミはドアを閉めようとするボクを見上げ
「お願い…山梨に…。」
もう出発したいと涙ながらに訴えた。
窓に映る景色を眺める酒蔵の法被を着たキミはいつも愛する人に振り回されている。
誰にでも人懐っこく微笑むその笑顔や仕事中の真剣な眼差し
たまにボクにからかわれて尖らせる唇や赤く染める頬
毎日キミのその表情に心奪われていた。
いけないと何度も心にブレーキをかけた。でもその都度キミは寂しそうに微笑むからボクは手を差し伸べてしまう。
いつかキミが言ってた言葉
「普通が一番」
本当だよな。
でも、ボクはバック1つ持っただけの彼女を拐ったんだ。
これも普通じゃないよな…。
