続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
『おまえ いい加減にしろよ。』
時計の針は17時を差そうとしているのに珍しく空は明るかった。
明日からの出張に備えて一日中得意先を回っいた俺の目の前、駐車場の入り口に腕を組んで微笑む沙希がいた。
『お帰り 京介。』
わざとらしく頭を下げながら歩み寄ってくるコイツに俺は週末球場で聞いた話をストレートにぶつける。
『みんなが興味本意で聞いてくるからそれに乗っただけよ?』
誰にもバレる訳はないと手に持っていたスマホのカバーをパタリと閉じて
『そんなに怖い顔して…最近いつもそんな顔してるよ?』
俺の顔を覗き込みながらクスクスと笑うコイツ
『おまえは話のネタのつもりでもこっちは迷惑してるんだ。』
沙希は俺の言葉を無視すると缶コーヒーを差し出して
『そろそろ帰って来る頃だと思って待ってたの。外回りお疲れさま。』
『ふざけるな。』
俺はその缶コーヒーを受け取らず真っ正面に立つと沙希の目を見据えた。
***
『本当に挨拶なんてするの?』
『一応ね、嫉妬深いご主人さまに大切な奥さまを一週間お預かりしますって挨拶ぐらいしないと。』
事務所で話をしてもよかったんだけど 一応プライベートなことなのでと 一日中外回りだった京介さんが戻って来るタイミングを見計らって私たちは駐車場に足を向けた。
売店の角を曲がろうとすると聞こえてきたのは京介さんの声。
もう着いていたんだと風間くんと顔を合わせて駐車場を覗き込むと
『和希の父親のことペラペラ喋んなよ。』
…え。
京介さんと話しているのはさっきまで事務所にいた沙希さん。
なんでこんな所で二人で話しているの?
『バレて困るのは私じゃないわ 京介でしょ?』
意味深な会話に耳を澄ますとその話は昨日球場で話題になった和希くんの父親の話
『おまえだってここに居られなくなるだろ。』
京介さんは父親が誰なのか知っているの?
っていうか何で京介さんが困るの?
戸惑う私の脳裏に昨日球場で聞いた噂話が甦る。
ウソ…あの話は噂じゃないの?
でも 次に沙希さんの口から紡がれた言葉は
『いいの?私たちのことがバレても?』
『あぁ。璃子には俺から話すから。』
それって和希くんの父親は京介さんだということ?
崩れ落ちそうになる私を風間くんが抱き寄せる。
『京介ー!』
遠くから竜介さんの声が聞こえた。
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