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続・あなたの色に染められて

第6章 すれ違い


パタパタパタパタ…

昨晩 俺の胸で泣きながら眠りについた璃子

それなのに いつものように朝から軽快なスリッパの音を響かせていた。

…無理してなきゃいいけど

もうすっかり冷たくなっている俺の隣に手を這わしながら昨夜のアイツを思い出した。

昨晩 璃子はただ俺の胸を泣き続けていた。

少し落ち着いたころ涙の理由を聞いてはみたけど「大丈夫 ごめんなさい」と繰り返して首を横に振るだけで結局璃子の胸の内を聞くことは出来なかった。

…どうすりゃいいんだよ。

沙希のことで一番大切な人を傷つけてしまっている。

さっさと沙希を突き放すことができたらいいんだけど…。

でも その材料が揃わない。

育ての親だというダンナは他界してしまったし 本当の親だと沙希が言う相手は家庭を持っているから簡単にDNA検査をしてもらうわけにはいかない。

俺に似てるとか勘弁してくれよ…。

真っ白な天井を見上げパタパタと鳴り響く足音を聞きながらもう一度目を閉じた。

ずっと悩んでいた。でももうそうするしかないんだよな…。

…よし この事実を璃子に話そう。

璃子にこの秘密を共有してもらうしか方法はない。

余計なことを背負わせてしまうことにはなるけど 昨日みたいに心を苦しめることは少なからず無くなるだろう。

明日は二人揃って出張に行くことになる。だからタイムリミットは今晩。

もう 泣かせるのは御免だ。

一生大事にするって誓った女をこれ以上泣かすわけにはいかない。

意を決するように勢いよく跳ねるように起き上がると 俺はパチンと自分の頬を叩いて

『よし!』

リビングに続くドアを開けた。


****


『じゃ 先に出るから。』

いつものようにキスをして玄関のドアを開けようとすると

『どうした?』

後ろからギュッと抱きしめられた。

振り向くと満面の笑みを浮かべる璃子がいて 首をグッと引き寄せられると璃子の方から唇を重ねてきた。

『昨日はごめんなさい。』

ペコリと頭を下げるとネクタイをもう一度直し肩をパンパンと叩いてもう一度微笑んで

『いってらっしゃい。』

と 手を降った。

少し目を張らせた璃子の微笑みが俺の心に罪悪感をもたらす。

いいのか これ以上背負わせて。

気が付いたらいつも無理ばかりして我慢する小さな体を包み込んでいた。

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