テキストサイズ

なぜ?

第12章 秘密2

私はベットで寝転びながら、封印した過去を思い出していた。


「オマエとは家柄が違う。結婚なんてできるわけないだろう?」
初めてできた恋人は、山間都市の市長の息子だった。

何が普通なのかもわからず、言われるままだった。
当時、友人もおらず、家族もいなかった私には、彼がすべてだった。
彼に言われるままだった。

一度も外で食事をしたことはなかった。映画を観に行くこともなければ、買い物に行くことも。
いつも私の家で食事をし泊まっていくか、外で会えばホテルに連れていかれ、事が済めばまた待ち合わせの場所に戻された。
家族はもちろん友達にも紹介されたことはなかった。


家族がほしかった。
彼に捨てられたら、また一人になってしまう。
だから、彼に嫌われたくなくて、自分の気持ちは圧し殺した。

「オマエは俺がいなけりゃ、どうしようもないんだ。」
「俺以外、オマエと付き合ってやるヤツなんていない。」
繰り返し彼から言われる言葉を信じていた。



数ヵ月後。私に子供ができた。やっと私にも家族ができる。
うれしくて彼に報告し、結婚してほしいと言ったところ、断固拒否された。
「結婚はできない。子供は堕せ。そもそも本当に俺の子なのか?」と疑われ、
そのまま音信不通になった。連絡をとりたくても、携帯は解約され、住所すら知らなかった。

どんどん大きくなっていくお腹を見ながら、私は子供には罪がない、
たった一人の家族だと産む決心をしたところ、ひき逃げにあった。
薄れていく記憶の中に、見慣れた車のテールランプが見えた。

結局子供は流産した。今後子供ができにくくなったことも聞いた。
テレビからは彼と大物代議士のご令嬢の婚約会見が流れていた。
ご令嬢が羨ましかった。美人で才媛で家族にも恵まれて。
それなのに、私はたった一つの希望すら取り上げた。
彼女なら仕方ない。私じゃあ太刀打ちできない。でも…

子供だけはどうしても産みたかった。彼もご令嬢ももういい。
子供は私の希望で、すべてだった。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ