テキストサイズ

果てない空の向こう側【ARS】

第10章 ワンダフル・ワールド(潤)

ジー「すごい立派な店ね…。びっくりした…。」

サロンは元町の大通り、老舗のデパートもあるしゃれた繁華街にある。

少し歩けば、中華街である南京町や、洋館が建ち並ぶ旧居留地もある。

北野の異人館街と並ぶ、異国情緒あふれる神戸のシンボル的な場所だ。

潤「うちの店は、東京ではカリスマ美容師がいる有名店だからね。」

俺は、ジーの髪をブロッキングしながら、さらさらと梳いていった。

ジー「そんなすごい店の、潤はチーフなんだね…。」

潤「チーフなんて名ばかりさ。独身で異動させやすかったから選ばれただけで、スタッフの中で俺が一番経験が浅いから。」

ジーの髪にハサミを縦に入れて、毛量を減らしていく。

ジー「そうなんだ…。」

店内に流れるFMラジオは、夜のプログラムに変わった。
ブルージーなジャズが流れ出した。

潤「だから、俺は早く腕を上げなくちゃいけないんだ。いつまでも下っ端チーフじゃカッコ悪いからね。」

ジー「ん…。」

それからは会話もなく、ただひたすらハサミを動かした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ