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果てない空の向こう側【ARS】

第9章 ベトナムの空の下へ(翔)

翔「え…。」

潤「父さん死んでから母さんは仕事ばかりだし、智兄は普段はボーッとしてるし…。」

翔「潤?」

潤「雅紀兄は部活で家にいないし、和也兄は半分引きこもりだし。……、翔兄は、俺にとって兄貴でもあり、父さんでもあったんだ。」

潤は、ひとつため息を吐いた。

潤「俺のわがままが過ぎたり、悪さした時に叱ってくれるのは、翔兄だけだった。」

知らなかった。

潤がそんな風に思っていたなんて。

潤「父さんいない五人兄弟で、貧乏で、でも勉強もサッカーもできる翔兄が自慢だったんだ。やればできるってこと、身を持って見せてくれたから…。」

粋がっていても、末っ子で、今まで複雑な思いをしてたんだな。

潤「翔兄がいるから、今まで安心してやってこれた。翔兄がいなくなるなんて、考えられないよ…。」

俺は、潤のグラスにワインを注いでやった。

潤は、あふれた涙をふきながらワインに口をつけた。

翔「潤、お前、もう大丈夫だよ。」

潤「へ?」

翔「ひとり立ちしろ。お前なら大丈夫だよ。」

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