
神様の願い事
第4章 誤解
額のホクロに手を伸ばそうとした。
その時、智くんの姿をした神様は毛布を纏ったまま翻った。
「じゃ、そろそろ帰るね」
翔「え」
「また」
翔「え、ちょっと」
何の前触れも無く帰ると言い出す神様は、そのままトコトコと鏡に向かって歩いた。
ゴチン
「いて」
翔「へ」
ゴチンゴチン
「あ、あれ?」
翔「...何やってるの?」
壁に掛かった六角形の小さな鏡。
その鏡に智くんの姿をした神様は必死で頭をぶつけている。
「おかしいな…」
翔「入れないんじゃないの?」
「へ?」
翔「だってほら、大きいから」
小さな猫ならスルリと潜れそうだけど、人間のサイズでは無理がある。
翔「つか、ちょっと待ってよ」
鏡の前で首を傾げる神様の腕を掴んだ。
「な、なに」
勢いよく引っ張ってしまったから、神様はよろけて俺の胸にすっぽりと納まったんだ。
翔「...俺の事が心配で来てくれたんでしょ? だったら帰るなんて言わないで」
「え...」
胸に納まった神様は、智くんの垂れ目で俺を見上げた。
「どうしたの? やっぱなんか、あった...?」
会いたくて堪らなかったんだ。
この智くんは本物じゃないのに、どうしても去って欲しくなかった。
翔「いや、どうもしないよ」
「本当?」
丸い目で、俺を見上げて心配そうに小首を傾げる。
こんなところまでそっくりに仕上げてるんだ。
翔「...ちょっとね、甘えたくなっただけだよ」
これは本当の智くんじゃない。
だからいつも恥ずかしくて出来ない事を、何故か出来てしまうのかもしれない。
「寂しいの...?」
涙目がちな、潤んだ瞳もそっくりだ。
翔「う~ん...、まぁ、少しは(笑)」
「翔くん...」
心配そうな声。
それもまさに智くんの声で。
「...それならそうと、早く言えばいいのに」
俺を見上げる為に生まれた隙間をピタッと埋めて。
「こうすると、安心しない?」
しっかりと、俺を包むんだ。
翔「そうだね…」
とは言っても智くんの姿をした神様は俺より小さいから、抱き締めてるというより抱き付いてると言った方が合うけど。
それでも俺は、ピタッと張り付く神様の温もりに安心するんだ。
