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神様の願い事

第3章 変化




ああ、智くんに会いたい智くんに会いたい。

お願い神様、今すぐあの人に会いたいんだ。



ドンッ


「んにゃっ」

翔「へ...」


俺は映像の消えてしまった鏡を背に、まるで教会で祈りを捧げる信者さながらに膝まづいて両手を握りしめていた。


「え、あれ?」


そんな俺の背にドンッという衝撃が走った。
その衝撃で体が跳ねた俺は、両手を前について顔をくるりと後ろに向ける。


翔「神様...?」


そこには、俺の背に弾き飛ばされひっくり返った神様がいた。


「あ? ここ...」


ひっくり返った神様は、むくりと起き上がって周りを見渡しキョロキョロする。


「え、呼んだ?」

翔「や、呼んだって言うか…」


呼んだと言うか、祈った。
お願いあの人に会わせてと、心から祈りを捧げた。


翔「てか、なんでここに」

「...だよねえ。ここ、君の家でしょ?」


未だきょとんとしながら小首を傾げている。


翔「どうやって入ったの? 鍵もかかってるのに」

「入ったってか、なんか気付いたらココに...」


神様は商店街に現れるんだ。
古くて錆びれた、廃れた商店街に。


「あ...? この鏡」

翔「ん?」

「どうしたのこれ。この間は無かったでしょ?」


このシックな寝室には似つかわしくない、少し浮いた鏡を見て神様は言う。


翔「ああ、おじいさんに貰ったんだよ。てか、そんなに変(笑)?」

「おじいさん...?」

翔「うん、なんだろう。鏡屋さんなのかな? 隣に大きな鏡も置いてたし」

「それって、これと似たようなデザインのやつ?」

翔「あ、知ってる?」

「知ってるも何も...」


途端に口篭る神様は、何やら呆れた顔をしている。


「ね、これ外せる?」

翔「え? そんな気に入らない?」


何がそんなに気に入らなかったのか。
だけど困った顔をする神様は愛くるしいし、取り敢えず今だけでも外すかと鏡に手を掛けた。


翔「よ...っ、くく...っ」


対して重量感も無かったこの鏡。
壁に引っ掛けただけのこの鏡。


翔「あ、あれ? なんで...っ、く」


そんな只のアンティークな鏡が。



物凄い粘着力を持った接着剤で、しっかりと壁に貼り付けた鉛のようになっていた。







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