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神様の願い事

第3章 変化

《sideO》


「ただいま」

智「おかえり...」


やっぱ戻ってくるのか。


智「ねえじいちゃん」

「ん?」

智「オバケなんでしょ? 成仏しなくていいの?」

「お主の幸せを見届けるまではな」


俺と成仏、なんの関係があるんだ。


智「もう俺十分だよ? これ以外なんもないと思うんだよね。だから早く成仏しなよ」

「追い出そうとしておるな?」


そりゃあ。
特に何も話してないのに俺の行動を把握してるし、監視されているようで気になるんだ。


「まだ成仏は無理なんじゃよ。ある人と約束をしたから…」

智「約束?」

「前に言ったじゃろう? 死ぬ間際で気付いても遅いと」


あ? 言ったっけな。


「死ぬ時にその人が言ったんじゃ。お互い勿体無い時間を過ごしたね、と」

智「勿体無い?」

「だから、時間を遡って昔の自分達をけしかけてやってくれとな。ワシがもう息絶えると言うのに、ソイツは笑いながらそう言ったんじゃ(笑)」

智「死ぬ時に笑ってたの?」

「そうなんじゃよ。全く酷いヤツじゃ(笑)」


鏡の中のじいちゃんは、どんな顔をして笑っているのだろう。


智「その人とどんな関係なの?」

「大切な仲間同士、というところか」

智「なんだ、恋人じゃないんだ」

「ふふ、そう聞こえたかの?」

智「凄く優しい声で話してるから、その人の事大好きだったんだろうなって」


顔は見えないけど声でわかる。
懐かしそうに、顔を緩めてるんだろうなという事が。


「...気付かなかったんじゃ」

智「え?」

「いや、気付いてたか」


ほんの少し溜息を零すと、鏡は静かに話し出した。


「気付いてたけど、わざと気付かないフリをしてたんじゃよ」

智「何に...?」

「ふふ、お主と同じじゃ」


この鏡に手があったら、きっと俺の頭を撫でていただろう。


「自分でも知らないうちに、自分の中に秘密を作ってしまったんじゃ」


静かな声は少し寂しそうにも聞こえて。


「自分でも知らないんだから、その秘密が暴かれる事なんて無くての」

智「へぇ...」

「...お主には無いか? 気付かないうちに作ってしまった、自分の中の秘密」



そんなものは無い、と思う。


だけど自分でも知らないのだとしたら、俺はどうやってその秘密に気付けばいいんだろう。






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