
神様の願い事
第3章 変化
翔「よし...、これでいいかな」
事前に頭でレイアウトしていたように、寝室の壁に鏡を掛けた。
その鏡はやっぱりシックな寝室には少し浮くけど、それ程悪い感じはしない。
翔「欲しいもの...、か」
俺の欲しくて堪らないものが手に入るかもしれないと、あのじいさんは言っていたんだ。
こんな鏡を置いただけでそんなおかしな話ある訳ないと分かっているのに、何故か俺はこの鏡が欲しくて堪らなくなったんだ。
翔「んな訳ねえよな…」
溜息を吐きながら見るその鏡には、情けなく眉を下げた俺の顔。
こんな訳のわからない物にまで手を出してしまう程、俺は智くんに溺れているのかもしれない。
翔「智くん...、貴方の、心が欲しいよ」
ボソッと呟くと、情けない顔に呆れた笑いを付け加えた。
翔「はは...、何やってんだ俺」
馬鹿か俺はと、鏡に背を向けベッドに向かおうとした時、俺の背後が少し明るくなった気がした。
翔「ん...?」
薄暗い部屋で、立ち止まって両手を見てみると、先程より部屋が明るくなっているのが分かる。
翔「え」
恐る恐る振り返ると、淡く光る鏡。
揺らめくように光り、次第にその明るさを消していく。
翔「え、これって...」
智くんの部屋だ。
光を消した鏡は俺の姿を映すこと無く、見覚えのある景色を映し出した。
その中では智くんの寝室が。
月明かりに照らされて淡く光るベッドが映し出されていた。
翔「どうして...」
そのベッドに歩み寄る影。
それはやはり智くんで。
コロンとベッドに転がる可愛い姿が見えた。
翔「何これ...」
まさか盗撮?
いやいやそんな馬鹿な。
明らかに只の鏡だし。
翔「智くん...」
鏡の中のあの人に触れようと手を伸ばしたけど、やっぱり只の鏡で。
ふわふわと柔らかい感触は得られなかったし、ニコニコと温かい空気も感じられなかった。
翔「冷て...」
俺が触れたのはなんの変哲もない只の鏡。
そのガラスの冷たさが俺の虚しさを増幅させる。
会いたい。
そんな気持ちを、せつないまでに感じるハメとなった。
