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神様の願い事

第3章 変化




翔「はぁ、はぁ」


どこだ、どこなんだジジイ。


翔「確かこの角を曲がって」


曲がると大きな姿見があるから、その辺りの筈だ。


翔「ごくり...」


ドキドキする胸を押さえながら、俺はそろりと角を曲がった。


翔「あれ...」


いない。

大きな姿見はあるのに、あのじいさんは居なかったんだ。


翔「この鏡...、あのじいさんが持ってたヤツと似てるな...」


確かあの鏡もこんなアンティーク調だった。
この鏡をぎゅっと小さくしたような、同じようなデザインのものだ。


「この鏡が欲しくなったんじゃろ?」


その姿見に自分を移し独り言を呟いていると、俺の背後から声が聞こえた。


翔「えっ」

「ふふ、お前さんはまた来ると思っておった」

翔「ど、どこから」


この間と同じようにいきなり俺の後ろに現われたじいさんに驚く。
するとじいさんはニヤリと笑って。


「鏡が欲しくなったんじゃろ? だから来たんじゃよ」


そう言うと俺の手を取り、あの鏡を取り出す。


「ほれ」

翔「え?」

「コレじゃろ?」

翔「あっ、おいくらですか?」


しまった、カードばっかで現金が少ししかねえ。


「0えんじゃ」

翔「へ?」

「プライスレスじゃよ」

翔「え、でも...、そ、そんなには入ってないですけど数千円ならなんとか」

「いらん」


払うと言っても金を受け取ってくれないじいさんは、最初から金なんて貰う気は無かったと言うんだ。


「この鏡は兄ちゃんにしか意味が無いのじゃ」

翔「へ?」

「他の人ではただの飾りにしかならない。だけど兄ちゃんなら、この鏡は役に立ちそうじゃぞ?」

翔「どういう...」

「ま、取り敢えず飾ってみ」


急にラフな話し方をするじいさんは、少し呆れた笑顔を残しながらこう言った。


「この鏡を上手く使って幸せを導け」

翔「導く?」

「お前さんなら必ず、気付かせてくれる筈...」


だから頼んだぞと、俺に鏡を渡すとじいさんは消えた。

掌に乗せられた鏡を見て、再びじいさんを見ようと思ったらもう居なかったんだ。


翔「なんで消えた...」


オバケのような恐ろしい感じはしなかった。


どちらかと言うと、少し落ち着くというか。




そんな不思議なじいさんから、俺は鏡を貰ったんだ。






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