今日も明日も
第57章 見えない鎖 part Ⅰ
彼の唇が何か言おうと動き出す
だけどまだ瞼は閉じられたまま、開く様子は見られない
見つめていると、消えそうな声で何かを呟いたのが分かった
何て言った?
息を殺して彼に近付き、口元に耳を寄せる
「…て、もう…や…て」
ー…え?
「ごめ…、なさ……っ」
固く閉じた瞼の端から零れ落ちる涙
何に謝ってるの?
何を許して欲しいの?
その傷はどうしたの?
誰にやられたんだよ
それでもなかなか目を開けない彼をもどかしく思う
だけど俺にはそれを見つめる事しか出来ない
だって無理に目を覚まさせたら、彼がパニックを起こす可能性もある
俺に出来る事と言えば
高熱ですぐに熱くなってしまうタオルを交換してあげる事だけだ
買っといた冷えピタを貼れば早いけど、額にある傷が気になって貼るのが躊躇われたから仕方ない
5回目になるタオルの交換をしようと手を伸ばしたその時
額のタオルを取ると同時に、彼の瞼がゆっくりと持ち上がった
「あ……」
どこか焦点の合わない瞳が宙を彷徨う
涙に濡れた彼のそれは、電気に反射して綺麗な光を携えていた
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