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10年恋

第1章 第一章

翔side


キミと出会ったのは、10年も前の話だ。
でもその時のことは、今も鮮明に覚えている。



「お母さん、お父さんと離婚することにしたの。だからね、お母さんの実家に引っ越すことになったのよ。」

学校から帰ってきたら、いつもは紅茶を飲みながら本を読んでいる母親が、せわしなく動いていた。旅行にでも行くのかと思った。大きなバックに、洋服を詰めていく母親。

「翔はどうする?お母さんについていくならはやく準備しなさい。」


突然のことに頭がついていかない。ただ、人生においての大きな選択を、まさに今迫られていることは確かだった。一瞬、迷った。学校のことが頭をよぎったからだ。だが、母親についていくことが正しい決断であることを知っていた。母親は、生まれた時からのお嬢様。今こうして裕福な生活ができているのは、母親の実家のバックアップがあったからだ。父親はどこにでもいる銀行マン。二人は格差婚だった。


「・・・準備、してくるわ」


母親はちらりとこちらを見ただけで、なにも言わなかった。

離婚の原因は、父親の浮気。
女に貢いだ額は1000万にのぼった。
そういえば昨日、すべてがばれた父親が母親に土下座して謝っていたな。離婚しないでくれって泣きついてたっけ。
ばかばかしい、俺は荷物の準備に取り掛かった。

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