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泣かぬ鼠が身を焦がす

第35章 秘事は


「そう、なんだ……」


俺は返事をして、また余計なことを言わないようにコーヒーの揺れる水面を見ながら1口口に含んだ

それを少しだけ口の中で温くして、飲み込むぐらいのタイミングで拓真さんが俺をじっと見た



なに?


「今日は、俺の故郷に純を連れて行こうと思っているんだ」


そう言った拓真さんの瞳はなんだか強い決意が滲んでいる気がする


「……うん」


そう答えた後で、さっきの店員さんとの会話で「久しぶり」って言ってたことを思い出した


拓真さん、暫く来てなかったんだよね
昔はよく来てたのに

それは何か理由があったから?

そこに俺を連れて行こうとしてるのは、どうしてなんだろう


俺が返事のあとに黙り込んでしまったからか、拓真さんが小さく


「嫌か?」


と聞いて来た

俺は勢い良く首を横に降る


「全然嫌じゃない! ……楽しみ。ほんとに」
「そうか」


俺は拓真さんの全部を知れるなら嬉しいよ
これは本心

だけど、拓真さんがそんなに辛そうなら
知らなくたっていいよ

だから拓真さん、そんな辛そうな顔しないで


「……」
「……」


それからまた会話がなくなって、お互いのコーヒーがなくなったタイミングでお店を出た

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