
泣かぬ鼠が身を焦がす
第21章 能ある鷹も身を焦がす(サイドストーリー)
お店の方に名前を告げて案内された先で、私は再び驚かされることになりました
窓際の席なんて、急に取れるものではありませんよね……
壁一面をガラスにして夜の街を一望できるようになっている、その真横
まるで自分達も夜に吸い込まれてしまいそうな気すらします
ウェイターさんが椅子を引いて下さり、私達は席に着きました
コースも予約されていたらしく、座るとすぐに前菜が運ばれてきます
「ワイン飲める?」
「えぇ。大丈夫です」
「そう、良かった。これ俺のお勧め」
自分のお勧めのワイン、だなんて
私は恐らく人生で1度も言うことはないでしょうね
「それじゃあ、乾杯」
「乾杯」
しかし気取った人ですね、なんて失礼なことを考えていたのはそれまでです
勧めて頂いたワインも、予約して頂いていたコース料理も驚くほど私の好みに合っていました
「美味しい?」
「……えぇ」
「そう、良かった」
何故、そこでそんなにも嬉しそうな顔をされるのでしょう
食べにくいです
コースの料理が全て終わり、食後酒が出されました
本当に美味しい料理の数々に、終わってしまうことへの寂しさを感じます
