
霧島さん
第4章 志月さんの秘密
「ね、なんで喋んないの?」
親指で目元を撫でられ、ぎゅっと目をつむったその時。
「ストップ」
私たちの間を引き裂く声で、男の動きがピタッと止まった。
「蛍」
声のした方を見ると、呆れた表情の志月蛍が立っていて。
「相変わらず他人に鈍感だな。その子怖がってるだろ?」
私の頬に手を添えている男の手をべりっと剥がす。
「え、震えてるのって怖かったから?まじで?」
「…普通わかるでしょ。すみません霧島さん。大丈夫ですか?」
志月蛍が来てくれたことで、ホッと安堵の息を吐く。
彼がいるだけで、こんなにも心強いとは。
「なんだ、俺がイケメンすぎてビビってるのかと思ったわ」
「冗談もほどほどにね。
霧島さん。この人は俺の兄の志月 筧。ここの図書館の職員をしてる人です」
「あ、兄…?」
そう言われて、改めて志月兄の顔を凝視する。確かに、目元がそっくりな気がする。
けれど、すっきりした顔立ちの志月蛍に対して、甘い顔立ちの志月兄は性格を含め真反対だ、
言われなければ気づかない気がする…。
「ごめんて。珍しいタイプの女の子連れてるから思わずちょっかいだしちゃった。小動物みたいだねこの子」
「可愛いでしょ?
でももういいから、いい加減仕事戻りなよ。館長に言いつけるよ」
「へいへい。弟様の言う通りに。じゃあね、…えーと、霧島さん?蛍に飽きたら俺のとこおいでね」
ヘラッと笑うとのそりと立ち上がり、私の肩をポンと叩いた志月兄。
「今日言ったこと、心に留めておいて」
そして、去り際にボソリと呟かれた言葉に、私は重い足かせをはめられたような気がした。
