
霧島さん
第4章 志月さんの秘密
「ね、好きなんでしょ?」
「、」
ぐいっ。顔を一気に近づけられて、ひゅっと息を飲む。
また冷や汗が背中を伝った。
「でもやめといた方がいいよ。これ、忠告だからね」
黙り込む私に構うことなく、男は至近距離でそう言った。まるで彼のことを何もかも知っているように。
「アイツ、誰にも本気になったことがないんだ。なのに、目的のためなら何でもやる怖い奴だよ」
「…」
「あんたの事も、全然好きじゃなさそうだし」
チクッと、胸に痛みが走る。
そんなの、はじめから分かっていたことだった。彼は私のことが好きじゃないことなんて。
なのに、なぜ私はこんなに傷ついているんだろうか。
好き……?私が彼を?
「ごめんね傷つかせて。でもこれ以上あいつの被害者は増やしたくないんだよね。女の子の傷ついた心を癒すのはいっつも俺だから、あんたもいつでもおいでね?」
パチンッ。転がしていたペンを持ち直した男が、ナフキンにサラサラと文字を書き出す。
「はい、これ俺の連絡先。いつでも連絡して」
そして雑に私の服のポケットにそれを押し込めると、男は無邪気に笑った。
「ていうか君、目ぇ綺麗だね?さっきから震えてるしチワワみたい」
「っ」
サラ、と細長い手が頬を撫でる。ぞわりとしたものが身体中をかけて、呼吸が苦しくなった。
