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霧島さん

第4章 志月さんの秘密



「すみません霧島さん。甲斐性のない兄で」


「いえ…」



目の前に座った志月蛍がメニューをとって、楽しそうに「どれにしますか?」と聞いてくる。



美味しそうなホットサンドに、パスタやグラタン。
沢山のドリンク。


どれもそそるもののはずなのに、私の頭の中は志月兄の先程の言葉でいっぱいになっていた。



『でも、やめといたほうがいいよ。これ、忠告だからね』


『ね、好きなんでしょ?』










『あんたは好きなんでしょ?』












「……っ」


カッと、体温が一気に上昇する。



「…霧島さん?」


急に真っ赤になった私を見て驚いた様子の志月蛍が私の名前を呼ぶ。



その声でさえも私の鼓動を早くさせ、締め付ける。



これが「好き」という感情なら、私はこんな気持ち知らない。



目が合っただけで熱くなって、激しく心臓が暴れて苦しくなる。


こんなの、私は知らないのに。




「霧島さん、大丈夫ですか?何か筧に言われました?」



「…、」



「霧島さ…「好き」



「え、」



「志月さんが、好き」



思わず口をついてでた言葉に、志月蛍はピタリと動きを止めた。


周りの音も段々遠ざかって、お互いが動かないまま見つめ合う。


ただ僅かに見開かれた志月蛍の瞳を見ていなければ、本当に時が止まったと思うほど静かだ。




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