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霧島さん

第2章 お久しぶりです、霧島さん




「それより霧島さん」



と、そんなことをぼんやり考えていたら、男が思い出したかのようにそういった。


顔をあげて、あ、と思う。


「君、ろくにご飯を食べていないどころか、お風呂にも入ってないんじゃないですか?」



すぐそばで、志月蛍がすん、と私のにおいを嗅いでいる。目の前には綺麗な鎖骨と首筋。



部屋着なのか、薄いその服は意外と男らしい体のラインをだしていて。



「動けないようなら、俺がお風呂場まで運びますよ」


窓から入り込む冷たい空気が私たちの間をぬって、志月蛍のシャンプーのいい香りを運ぶ。


「霧島さん?」


返事をしない私を不思議そうにのぞき込んできたその顔は、やっぱりとても綺麗で。



私は、少し長めの前髪から覗く涼しげな瞳に思わず吸い込まれてしまった。



「ハナ」


「っ!!!」


「よかった。目を開けたまま寝てるのかと」


「す、すみません」


大きく動揺した私を見て、ふっと笑った志月蛍。


いや、よく考えるとなんで私が謝ってるんだろう。


「さてと。お風呂いきましょうか」


なんて思っているうちに、腕まくりをした志月蛍がそんなことを言って立ち上がる。


が、待ってほしい。


「貴方、もしかしてやっぱり聞こえてたんじゃ、」



三日前の、あれが。



だって、さっき私の下の名前を呼んだ。



管理人さんから下の名前を聞いたんじゃないってことは断言できる。なぜならーーーー…。



恐る恐る志月蛍の顔を見上げると、




「さあ、なんのことでしょうね」



と、楽しそうに細められた瞳と目が合って、私は心の中で絶叫した。



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