
不透明な男
第3章 自覚の無い男
研修医さんは他の業務があるだろうから、と松兄ぃは翔をさっさと追い払った。
兄「病室に戻るぞ。」
智「はーい」
外の風を浴びて気分転換した俺は、ゴキゲンで松兄ぃの後に続いた。
病室に戻る途中、俺は次々と声を掛けられる。
「屋上に行ってきたのかい?風邪引かないようにね。」
俺の頬を両手で挟み込む医師。
智「うん、大丈夫。ありがと。」
次の医師は
「冷えたんじゃないか?早く暖まらなきゃね。」
と俺の背中を擦る。
智「うん、すぐ部屋に戻るね。」
看護師には
「随分冷たくなってますよ?」
と俺の手を包み込み擦られる。
頬の筋肉がピキピキしていた松兄ぃは、俺をギロッと見下ろすと俺の首根っこを掴んだ。
兄「早く戻るぞ。」
智「あっちょっと、自分で歩けるよ~」
俺は、捕らえられたイタズラ猫のような形で病室に連行された。
やっと辿り着いた病室に放り込まれる俺。
智「も~乱暴にしないでよ。」
兄「なんなんだ、アイツらは。」
智「なにって…お医者さんだよ。」
兄「んなこた分かってる。馴れ馴れし過ぎやしないかって聞いてるんだ。」
智「ん~おれも最初思ったけど、いつもあんなんだよ?みんな優しくしてくれてるよ?」
兄「いつもあんななのか!?」
智「え?うん…」
なんてこったと松兄ぃが頭を抱える。
だから心配なんだ、ほっておけねえとブツブツ言っている。
兄「ところで、研修医と随分仲良さそうだったが?」
智「あぁ、翔くんの事?」
兄「し、翔くん?」
また松兄ぃの顔がピクピクしてる。
兄「早く開放してやらないと、研修医だって他の業務があるんだから。」
智「そうだよね。独り占めしちゃって悪かったな。」
兄「…独り占めだと?」
智「や、なんか心配して話し相手になってくれてただけなんだけどね。」
も~お前マジかと言いながら、松兄ぃは深い溜め息をついていた。
