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不透明な男

第3章 自覚の無い男


俺は翔をぎゅっと抱き締めた。
なんでそんな事をしてしまったのかは分からない。

俺は翔をムギュムギュと抱き締め、背中をポンポンと叩く。


智「よくがんばりました~」


また翔が固まった。


智「? おーい、翔くん?気絶してんの?」


腕の中の翔の顔を覗き込む。


翔「ハッ!あ、え、えと」

智「医者が気絶するとかやめてよね。」

翔「や、気絶では…」


頬を紅く染めた翔が俺の顔を見る。
ん?と小首を傾げる俺の顔は翔の鼻先が触れそうな位に近かった。


翔「だから無防備なんですよ貴方は…」


翔は潤んだ瞳で俺を見つめると、そっと俺の頬に手をあてがった。

伏し目がちになった翔の顔が傾く。


その時


兄「何やってる?」

智「あ…、兄ぃ」


翔が俺からバッと離れる。


兄「こら。何やってんだ智。」

智「へ?気分転換に来ただけだよ?」


兄ぃは翔の方を見る。


翔「あっ、これは松岡さ…ハッ」

兄「ばっ」


翔が慌てて口を押さえる。


智「まつおか…?」

兄「う…」

智「松岡、修造?」

翔「はい?」

智「んなわけ無いよねぇ。顔、違うもん。」

兄「お前、松岡修造知ってるのか?」

智「ん。そういうのは忘れてないみたい。」

翔「へ~」

兄「へ~、じゃねえよ!」

翔「すっ、すいません…」


なんだか二人のやり取りが面白くて、俺はププッと吹き出した。


智「あはっ あははっ」

兄「なんだよ…」

翔「お、大野さん…」


ポカンとする二人の間で俺は笑っていた。


智「んで、松兄ぃでいいんだよね?」

兄「…そうだよ。畜生めが。」

智「畜生めってなんだよ(笑)」

兄「なんか負けた気がすんだよ!」

翔「ププッ」

兄「お前のせいだからな!」

翔「あっ、す、すいま…」

智「はっ、あははっ」


松兄ぃはプリプリ怒って翔を睨み付けた。


智「そんな怒っちゃかわいそうだよ~」

翔「いえ、約束を守れなかった僕が悪いので…」

智「そんな約束させた松兄ぃが悪いんだよ。おれは、翔くんのおかげで名前が分かったんだから助かったよ。」

翔「お、大野さん…」


そんな俺たちの会話を、松兄ぃは刺すような視線で見ていた。





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