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不透明な男

第3章 自覚の無い男


続いて翔がやって来る。これも日課だ。


翔「看護師に何かしたんですか?」

智「おれ?なんもしてないよ?」

翔「いつにも増して看護師達が盛り上がってましたよ?」

智「へ?」


翔は呆れたようにクスッと笑う。


翔「貴女、自分の顔…鏡で見たことあります?」

智「顔洗った時に見たよ?」

翔「どんな顔してました?」

智「寝ボケた顔してた。」

翔「…相当な天然ですね。」


翔は、これはもっと脳の検査をした方がいいかも、とか言いながら聴診器を俺の胸に当てる。

続いて俺の首に指を這わせ脈を取る。


翔「綺麗ですね…」


翔が呟く。


智「ほんとだ。綺麗だね。」


俺は窓の外に目をやり返事をする。


翔「ハッ! あ、いえ、そうですね…」

智「ね。」


ニコッと微笑む俺を見ながら、やっぱりもっと詳しい検査を…と翔は呟いていた。


翔「うん、背中もほぼ完治してますね。」

智「あ、ありがとうございます。」

翔「後はどうします?」

智「あと?」

翔「はい。退院とか。」


体の調子は問題無いし、退院しようと思えばいつでも出来ると翔は言う。
ただ、記憶を無くした原因が分からないのが少し心配ではあるが、定期的に通院すれば大丈夫らしい。


智「原因か…。」

翔「なぜ倒れたかも覚えてらっしゃらないので…。」

智「俺の傷って殴られた感じ?」

翔「いえ、そんな酷くはありませんでしたので、倒れた拍子に負傷したか…でも背中は打撲でしたし…」

智「勉強に励め、研修医。」

翔「すいません…。」


こいつはまだまだ修行しなきゃいけないな、と思いながら俺は項垂れる翔を見ていた。




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