
不透明な男
第13章 胸裏
智「ん、ぅ…」
頭が痺れる。
脳が、ジンジンと疼く。
翔「智くん…」
甘い声で俺を呼ぶ。
口内の熱い温度と、そのとろける様な声で、俺を混乱させる。
智「ふ、ぁ」
やめろと歪めた俺の顔も、いつの間にか力が抜けている。
翔の声は、俺の脳に届くんだ。
何を言う訳でもない。
只、俺の名を呼ぶだけなのに、何故か心が擽られる感じがする。
智「ん、翔く、やめ…」
思わず解れそうになったその心を閉じる。
グッと胸を押し、翔を押し退けた。
智「ぷはっ、はぁ、はっ」
翔「智くん…」
まだそんな顔してんのかよ
智「なんだよ…、がっつき過ぎだよ」
切ない顔なんてするな
智「窒息しちゃうよ」
しないけどさ
智「おれ、見られるの好きじゃないんだよね」
翔は、俺の奥を見ようとするんだ。
智「だからさ」
今もまさにそうだ。
話す俺を、黙って只じっと見つめるんだ。
智「もう見ないで…」
その瞳に見つめられると、俺は堪らなくなるんだ。
罪悪感というか、なんというか。
翔「今、何を考えてるの…?」
翔を汚してしまいそうで怖いんだ。
ここから離れなきゃ、早く翔の元を去らなきゃと、思ってしまうんだ。
智「だから…、見んなって」
翔「智くん」
俺に再び掴みかかる翔を振り払う。
そこで睨みを効かせればいいんだろうけど、俺は目を逸らしてしまう。
見られたくないんだよ。
こんな汚いの、見せる訳にいかないんだ。
智「もう、見なくていいから」
翔「そんなせつない顔してるのに、放っておける訳無いでしょう?」
は?せつない?
んな顔してねえよ。してんのはそっちだろ。
智「頼むよ。お願いだから、見んじゃねえ…」
俺は顔を背けたまま、翔の側を離れた。
翔がせつないと言ったその顔を、もう見せないんだ。
翔「智くん、待って!」
智「もう、ついて来るな」
俺を呼ぶ翔の声。
それを背に、俺は足早に去る。
もうついて来るなと言った。
賢い翔なら分かる筈だ。
もう来ない。
きっと来ない。
俺が言ったのに、どうして心臓が痛くなるのか。
