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不透明な男

第13章 胸裏



翔「うわべなんかじゃない。智くんは…」


話を続けようとする翔にぐっと近付く。
俺の吐息が顔にかかる程の距離で、俺は翔を見上げる。


智「俺が、なに…」


翔は驚いて目を丸くする。


智「キス、しよっか?」

翔「は…?」


翔の瞳が揺れる。
俺の言葉に動揺しているのが分かる。


智「ずっとしたかったんでしょ?」

翔「さ、智くん」

智「いいよ…」


鼻先が触れそうな距離まで近付くと、俺は目を細めて翔を見る。
顎を上げて、細めた瞳で翔を見つめてやるんだ。


智「ふふっ…。そんな、驚かなくても」

翔「え…」


今度は少し怪訝そうな顔を翔はする。


智「こんなの、すぐ出来ちゃうんだよ。おれ」


翔の寄せた眉がピクッと動く。


智「分かったでしょ?好きでも無い奴と簡単にできちゃうの」

翔「智くん…」


怒ったんだろうか。
翔は険しい顔をした。


智「翔くんは俺を美化してただけだよ。本当のおれは…」


汚いんだ。
そう言おうとして言葉が詰まった。

翔に胸ぐらを掴まれたんだ。


智「…っ」


胸ぐらを掴まれたと思ったら、壁に叩きつけられた。
細い路地に引きずり込まれて、壁に押し付けられたんだ。


智「怒ったの…?」

翔「智くん」


強い瞳で俺を見る。
その力の籠った瞳は、月明かりで揺れる様に輝く。


智「そんな目で見ないでよ…。これが本当のおれなんだから、仕方な…っ」


話す俺の口を塞ぐ。
正確には、俺の唇を塞いだ。


智「ん、んん…」


輝く瞳を細めて、熱い唇を俺に押し付ける。


智「な、何す…っ」


翔が唇をずらした隙に話そうと試みる。
だけどすぐに翔の唇は、俺を捕らえる。


翔「何って、キスでしょ?」

智「ん、ふ…」


熱い舌が俺の中を舞う。
背に伝わるひんやりとした壁の温度すら、温かく感じさせる。


智「ふ、ぁ…、翔、く」

翔「どうしてそんなに焦ってるの?」


乱暴に俺の中を掻き乱す。

なのに、俺が窒息してしまわない様に、呼吸をする隙を与える。


智「ん、やめ…」

翔「いいんでしょ…?」




その間に翔は話す。




切ない声で、俺に話しかけるんだ。








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