
不透明な男
第13章 胸裏
社長は専属のBGを引き連れて屋敷に帰っただろう。
俺からの連絡を待っている筈だった。
俺は社長に連絡を入れる。
社長のゴシップを狙う只の一般人だった、週刊誌にネタを売って一儲け企んでいたただけの雑魚だったと。
社『で、そいつは?』
智「心配いりませんよ。当分歩けないでしょうから」
社『ははっ、お前という奴は』
智「しかし社長。社長の噂は色々とあるんですから、安心しないで下さいよ?」
社『噂か』
智「ええ、そりゃもうたっぷりと」
社『ははっ、そんなにか』
智「僕が知らない事も、沢山あるんでしょうね…?」
労をねぎらってやると言う社長を、俺はなんとか断った。
もう酔っ払ってしまって駄目なんだと、なんなら今すぐ吐きそうだと断った。
残念そうな声を出していたが、また明日、部屋に呼んでくださいと柔らかい声で話すと社長は諦めた。
仕方無いなと、残念そうに諦めたんだ。
智「はぁ…」
電話を切ると、思わず溜め息が漏れる。
頭をくしゃくしゃと掻き、唾を吐き捨てたいのを我慢しながら俺は家に向かう。
翔「智くん」
俺は静かに振り向いた。
その声が誰だか分かっていたから。
見ちゃいけないと瞬時に悟ったのに、何故か体がゆっくりと翔の方を向いてしまった。
翔「誰と話してたの?」
うっかりしていた。
社長との会話に気を取られて、翔がいる事に気がつかなかった。
智「なんでこんな所に…」
下品な繁華街だった。
こんな所、医者の翔には似合わない。
翔「言ったでしょ。いつも見てるって」
他人がこの会話を耳にしたら、少し恐怖を覚えるかもしれない。
だけど不思議な事に、俺は怖くなかった。
智「まだそんな事やってんの…」
だって、翔は少し悲しそうな顔をしている。
真顔なのに、何故か苦しそうなんだ。
智「翔くんはさ、俺の何を知ってんの?」
翔「え?」
智「会話もした事無かったんでしょ?俺がどんな人間かなんて分からないじゃん」
翔「分かるよ…」
智「わかんないよ。見てただけじゃん。うわべだけでしょ?」
翔は辛そうな顔を見せる。
悔しそうな、悲しそうな顔を。
駄目だよ。
お前は、笑ってなきゃ駄目なんだ。
