
不透明な男
第13章 胸裏
智「僕、お酒は弱いのであまり…」
次は飲み屋だ。
それもすこぶる豪華な会員制のラウンジだ。
きらびやかな女性を纏って社長は御機嫌だった。
社「成瀬はこういう所に来るのは初めてか?」
女性に挟まれて小さくなる俺を見て、社長は笑う。
智「来ませんよ…」
社「ははっ、勿体無い。お前なら何処に行っても人気者だろうに」
初めてだから、しっかりもてなしてやってくれと、社長は女性達をけしかける。
そのせいで、社長の手前遠慮気味だった女性達が騒ぎ始める。
全く遠慮の無くなった女性達は、俺にベタベタと纏わり付き、煩わしい程だ。
智「しゃ、社長、からかわないで下さい」
困った表情をする俺を、女性達と一緒に愉しそうに笑う。
社「呑めない訳では無いだろう?」
智「一応BGですし、社長の前で戴く訳には…」
社「私が呑めと言ってるんだ」
また命令だ。
逆らえる筈も無い俺は、酒が弱いふりをして少し呑む。
そんな俺とは逆に、ニヤニヤする社長は酒が進んだ。
「え~、本当にいいんですかぁ?」
社長は隣の女に何やら耳打ちする。
俺をチラッと見ながら、いやらしい笑みを浮かべて。
「うふふっ、社長サマのお許し戴いちゃったので♪」
智「え、な、何ですか」
ニコッと笑う女は俺にすり寄る。
腕を俺の首に絡めたかと思ったら、急にキスをしてきた。
智「ちょ……」
女の頭を掴んで引き離そうと思ったら、俺の腕には他の女が絡み付いていた。
首を振って逃れようとすると、俺の顔を掴んでしっかり固定する。
智「ん、離し…て…」
高級クラブだなんて聞いて呆れる。
甘い香りを振り撒くくせに、その行為は下品そのものだった。
智「ん…っ、ぷ、はっ」
漸く引き離すと、社長と目が合う。
薄く細めた目で、俺を食い入る様に見ていた。
その視線に俺の背はゾクッとする。
酒を呑んだにも関わらず、俺の身体は熱を持つどころか、凍えて震えそうな程だ。
どうやって逃れようか
酔ったふりをするか
それとも社長を酔い潰してしまおうか
側にいるシラフのBGはどう対処しようか
甘い匂いとねっとりとした視線が混ざって気分が悪い。
出来る事なら今すぐ吐きたい位だ。
キツい酒を呑んでしまった俺は、頭をぐるぐると回転させた。
