
不透明な男
第13章 胸裏
A「また寝れないのか?」
漸くマシになった隈を、また作って出社する。
そんな俺を二人は覗き込む。
B「今晩、俺んとこ来い」
智「なにその台詞」
B「へ、変な意味で言ったんじゃねえよ。うちで寝ろって言っただけだ」
白い目で見る俺に慌てて弁解する。
智「大丈夫だよ、今日はちゃんと寝る」
A「今日は社長も出張で居ないし、会わなくて済みそうだな」
智「うん」
て訳で俺は二人と別れ、ひとりで夜道を歩く。
その俺を、呼ぶ声がした。
智「はい…?」
くるっと振り返る俺は、心臓がひとつ大きく鼓動した。
途端に顔が固まりそうだった。
智「社長…」
俺は慌てて顔を戻す。
少し離れた車道にある車から顔を覗かせる社長に、俺は笑みを作って歩み寄る。
智「社長どうされたんですか? 明日まで出張の筈では…?」
嬉しそうに近付く俺に、社長は笑みを返してきた。
社「ああ、それが思いの外早く事が進んだんだ」
智「それで、今お帰りだったんですか? お疲れ様です」
社「ああ」
車のドアを挟んで会話をする。
ドア越しに頭を下げる俺を見ると、社長は言う。
社「メシを食べ損ねてな。一緒にどうだ?」
やべえな。
まだだ。
まだその時じゃない。
智「え…、ですが、僕は只のBGです。そんな者が社長と一緒になんて」
社「私がお前と食べたいんだ。 早く乗れ」
一緒に食べたいと言う割りに、その口調は俺に命令をしていた。
今の俺の立場では断れる筈もない。
それを分かって社長は言ったんだ。
社「どうした、あまり食が進んでいない様だが」
智「すいません、少し食が細いもので(笑)」
結局俺は社長とメシを食っている。
どうやってこの場を切り抜けようかと頭をぐるぐる悩ませながら食事をしていた。
社「ははっ、そうだったな。だからそんなに華奢なんだ」
智「ふふ、小さい頃にもっと食べておけば良かったですね」
ニコニコと笑いながら食事をする俺を、社長はじっくりと見るんだ。
社「そんな必要は無い。確かにお前は華奢だが、その華奢故の良さがお前にはある」
智「そんなのあります?」
苦笑いする俺を舐める様に見る。
独特の、ねっとりとした空気を社長は醸し出した。
