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不透明な男

第13章 胸裏




家でひとり、俺は眠りにつく。


東山先生にはああ言ったけど、実際のところそんなに眠れていなかった。

どうしても夢を見てしまうんだ。


隣の部屋に置いてある絵。

あれは俺が描いた。

忘れるな、忘れちゃいけないと、俺が描いたんだ。


俺はこの家の所々にヒントを残した。

また逃げてしまうかもしれない俺の為に、自ら残したんだ。


その甲斐あってか俺は過去の記憶を取り戻した。

しかしそれは、起きてようと寝ていようと、所構わず強制的に俺の脳裏に映し出される。


あの二人が一緒に寝てくれていた時は少し落ち着いた。
たとえ魘されても、寝ているのか起きているのか分からない状態の俺をしっかり抱き締めてくれた。

大丈夫、もう終わった事だ、もう怖くないと、朦朧とする意識の中、いつも俺に言い聞かせた。



なのにまたこれだ。


しかも夢は進化をする。


何故だか翔の声が聞こえるんだ。


俺を呼ぶ声。

優しい眼差しで見つめる瞳。

ふんわりと、頭を撫でる手。


どれも全部翔のものだった。


それが急に渦を巻く。

黒くてドロドロした渦が、俺を飲み込もうとするんだ。


あの渦の正体は翔じゃない。

そんな事分かってる。


俺は渦に捕まる。

足をすくわれて、動けなくなるんだ。

そんな俺を渦は容赦無く飲み込む。


するとその渦は俺の顔になる。

俺の顔をした汚い渦は、綺麗な翔の背後に迫る。


何も知らずにキラキラした瞳を輝かせながら笑う翔を、その渦で汚そうとする。


透き通った翔を、濁そうと企むんだ。



やめろと叫んでも、翔の背後でその渦は大きくなる。




俺の不透明さが、翔を汚染するんだ。





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