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不透明な男

第13章 胸裏




B「…汗だくじゃねえか」

A「何があった?」


社長室から解放された俺を二人が囲む。


智「なんもないよ…」

A「無いことないだろう。真っ青だ」


大粒の汗を流す俺を心配そうに覗き込む。
俺を仮眠室に連れて行くと、二人はあれやこれやと俺の世話を焼く。


智「いつも思うんだけどさ。お前ら持ち場離れていいの?」

B「あ? んなの大丈夫だ」

智「そろそろクビになるよ…?」

A「それは好都合だ」


もうコイツらに社長を守る義務は無かった。
俺にも無い。
だって真相はもう分かったのだから。

だけど俺達は未だこうして社長を守っている。


A「辛いか…? だけどあと少しなんだ」

B「悪いな。もう少しだけ、我慢しろ…」


俺の知りたい事は分かった。
事実に絶望した俺は、もうここに居る必要は無いと思った。

だから言ったんだ。
もうここには来ないと。

連絡が取れなくなった、何処に行ったのか分からないと言っておいてくれと二人に頼んだ。

だけどそんな俺を二人は引き留めた。

お前が消えても何も変わらない、あの社長は必ずお前の代わりを探す筈だと。
悲劇は繰り返されるんだと。

そうならない為に、ここで社長の息の根を止めなきゃならないんだと。


智「大丈夫だよ」


殺す訳じゃ無い。
そんな事をしたら、居なくなったアイツらが悲しむだけだと、他の手段を考えると二人は言う。

その手段とやらに、目星が付いてきた様だった。


智「てか、お前一体何者なの」


俺はチラッとAを見た。
俺の視線を感じると、Aはニヤッと笑う。


智「悪そうな顔してる…」

A「そうか?」

智「だって普通、そんな知り合い居ないでしょ」

A「ははっ、顔が広いだけだ…」


絶対嘘だ。
あんな悪い顔見た事ない。
ヤクザなのかな。


智「こっちももうちょいだよ」

B「そうか…」

智「うん。でもいつ暴走するか分かんないから、早めに準備しといてよね」

A「ああ、分かった…」


至って普通に話す俺は少し震えていた。

膝が抜けそうなのがバレない様にと、俺はベッドに横になっていた。

だけど、ほら飲めと渡されたペットボトルの蓋が開けられなかったんだ。


小刻みに震えるその手を知ってか知らずか、Bは何も言わずに蓋を開けてくれた。




時は、俺に迫りつつある。







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