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不透明な男

第13章 胸裏



俺の上向いた顎から首筋が伸びる。
その俺の喉仏を、社長は指で撫でる。


智「っ」


思わず身体が震えた。


社「ははっ…」


震えてしまった俺を見て、社長は愉しそうに笑う。


社「きつそうだ。少し、弛めた方がいい」


そう言うと、社長は俺のネクタイに手をかけた。


智「しゃ、社長」

社「そんなんじゃ、息苦しいだろう?」


怯える俺を他所目に、社長は俺のボタンをひとつ、ふたつと外していく。


社「どうした…? 汗をかいてる」

智「…っ」


緊張からか、俺の首筋に汗が伝った。

その光る汗を、社長は拭う様に俺の首に手を這わせる。


智「そろそろ秘書が、来ますよ…」

社「もうそんな時間か」


硬直した身体に怯えた瞳。
更には汗で光る首筋。

社長の好きそうなものが勢揃いだった。


ギラつく瞳で俺を舐める様に見る。
その社長が時計に目をやった隙に、俺は顔を背けた。


社「成瀬」


顔を背け、できるだけ体を離す。
それでも肘掛けと背凭れに阻まれ、俺の体は社長の至近距離にあった。


社「緊張しすぎだろう… 心臓の音が聞こえそうだ」


目線を落とし、少し唇を開いて小さく呼吸をする。
自分を落ち着かせようと取った行動にも意味は無く、俺の首はドクドクと脈を打つ。


智「だったら、離れて下さいよ…」

社「ん?」


横目でチラッと社長を見る。
その俺の頬を捕まえると、社長は自分の方に俺の顔を向かせた。

渦を巻く瞳と視線がぶつかる。

その瞳に、あの出来事が思い出される。
飲み込まれてしまいそうで、俺の体はガクガクと震えそうになる。


智「いくらなんでも、近すぎますって」

社「そうか…?」


視線を絡ませながら俺は言う。
少し怯えた表情に、困った色を乗せながら俺は言うんだ。


智「そうですよ。…からかうのもいい加減にして下さいね?」

社「ははっ…、お前には敵わないな…」


困った顔をしながら照れ臭そうに笑ってやる。
笑いながら社長の胸を押すと、社長は抵抗する事無く俺から離れた。


敵わないなと言いながらも、俺にギラギラとした視線を纏わりつかせる。


その社長の瞳が怖くて、俺は社長を凝視出来なかった。




だけど社長はずっと、俺の背けた顔を見ているんだ。






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