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不透明な男

第13章 胸裏



智「仕事してるだけだよ」

翔「なんの」


まるで取り調べの様に翔は俺に聞く。


智「葬儀屋…」

翔「嘘」

智「嘘じゃないよ」

翔「葬儀屋の仕事って、そんなに辛いの?そんな薬飲まなきゃやってられない程?」


刑事の様に俺を問い詰める。


智「…そりゃ辛いでしょ。当たり前だよ」

翔「薬だけじゃ抑えられないんでしょ?人に慰めて貰わないとやってやれないんでしょ?」

智「なんの話…」

翔「俺が見てるの知ってるんでしょ?貴方が何してるか、見てるんだよ?」


翔は男に抱かれる俺を見ていた。
いや、姿は見ていないのかもしれないが、それでもドアの前で俺を感じていた筈だ。


智「見てるんだったらもういいじゃん。聞かないでよ」

翔「だからなんでそんな事してるのか、理由を聞かせてって言ってるの」

智「理由?」


そんなの言える訳無いだろう。
俺は、翔にこの濁った瞳を見せたくないんだ。
知られたくないんだよ。
何故だか俺は、翔には隠したいと思ってしまうんだ。


智「別に…、そんなの、おれが只ヤりたいだけなんじゃん?」

翔「は…?」


もう見ないでくれよ。
そんなに俺の中を覗こうとするな。


翔「そんな訳無いでしょ…? 何か、あるんじゃないの?」

智「なんもないよ。ほら、おれの目見て」


その濁った瞳を翔に見せる。


智「きったない目、してるでしょ?」

翔「智くん…」


逸らせよ。
そんな瞳見たくないって、すぐ逸らせばいいだろ。


智「ふふ、ごめん。こんなの見たくないよね」


お前が逸らすまで我慢してやろうと思ったのに、全然逸らさないから根負けしちゃったじゃねえかよ。


翔「なんでそんな悲しい目をするの…」

智「は…?」


翔が、俯いた俺の頭を撫でる。


智「…めろよ」

翔「え?」

智「だから… さわんなって!」


何故俺を慰めようとする?
こんな汚いの、触りたくも無いと思え。
好きだなんて何かの間違いだ。
現実はこんな奴だったのかと、呆れて俺から離れればいい。


智「好きだなんて幻想だよ。実際何も見えて無いじゃん」

翔「なんでそんな事…」

智「本当の事だよ。おれの汚い所、何も知らないでしょ?」



早く俺を嫌え。


好きだなんて言うな。



これなら俺は、恨まれていた方が良かったのかもしれない。





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