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不透明な男

第13章 胸裏



ごめんねと囁きながら翔は俺を抱き締めた。
そんな翔に、俺は笑みを返す。


智「ふふ、こっちこそごめん。ちょっと驚いただけだよ」


そう言いながら体を起こして俺は未だ開いたままの服のボタンを留めた。


智「悪戯がすぎちゃった」


ごめんね?と俺はもう一度謝る。


翔「本当に、大丈夫なの…?」

智「ん?ふふ、大丈夫だよ」

翔「だって、あんなに震えるなんて…」

智「だから、驚いただけだよ。だって翔くんは男とそんな事しないと思ってたからさ」


服を整えると翔をチラッと見る。
さっきの凍る様な瞳は既に仕舞っていた。


翔「好きだよ」

智「え…?」


ドキッとした。
急に出てきた翔の甘い台詞。
前は、俺に好意があるだろうとは思っていたけれど、そういう意味の好意だとは思っていなかった。

それに、恨まれてるんじゃないかと誤解をする様になってからは、そんな事、忘れていた。


翔「まだ気付かないの?」

智「え、だって翔くんは…」


前に可愛い看護師とキスしてたじゃないか。
何を言ってるんだ。


翔「何も無くて5年間も見てる訳無いでしょ」


翔は俺を好きだと言った。
5年も前から俺の事が好きだったと。


翔「全然貴方に気付いて貰えなくて…。だけど、貴方は、俺に出会った」


記憶を無くしてたけど、俺の病院に来たんだ。と翔は話す。


翔「俺が勝手に見てただけだから、貴方は俺の事知らないだろうし。だから初対面のふりをして」


翔くんって呼んでくれた時、本当に嬉しかったんだと翔は話す。


翔「ちゃんと貴方と向き合って話が出来た。もう隠れて見なくていいんだって思ったらすごく嬉しくて」


だけど、また隠れるハメになった。
貴方の事が心配で、後をつけずにはいられなかったんだと。


智「心配…」

翔「それだよ…。その髪、なんでそんな事してるの…」


俺の昔の家も翔は知っていた。
俺が記憶を無くして、その事も一緒に忘れればいいと翔は思ったらしい。

だけど俺はまた、髪を黒くして出掛ける様になった。

ああ、まただと、翔は心配で寝る暇も無く俺の動向を見張っていたらしい。


翔「一体何やってんだよ…」



温かい瞳と冷たい瞳を併せ持つ翔は、悲しい色を含んだ瞳で俺を見るんだ。





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