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不透明な男

第13章 胸裏



俺の閉じた唇を翔の舌が無理矢理開く。
ゾクッとする視線とは裏腹に、翔の舌は熱く俺の中に入ってくる。


智「ん…っ、んぅ」


怖い。
視線が痛いんだ。
目をぎゅっと閉じてもその視線は俺に刺さる。


智「しょ、くん…っ」


翔の服を掴んで引き離そうともがく。
だけど意外にも翔の力は強かった。


智「ん、やめ…」


そのままベッドに押し倒される。
唇を離し、俺の両手を押さえ付ける。


智「な、なに…」

翔「何じゃないでしょ? 俺を弄んでるの?」


少し細めた目をギラつかせ、俺を見据える。
そのギラついた目に、社長の記憶が蘇る。


翔「本当は分かってるんでしょ?」

智「や、やめて翔くん」


いつもは丸くてキラキラした瞳が変貌する。


智「怖いよ…」


俺が翔を変貌させたのだろうか。
きっとそうだ。
普段の翔は優しくて可愛くて、なのに、俺が一緒にいると牙を向く。


翔「仕掛けたのはそっちでしょ…? なんで震えてるの…」


震える俺に気付くと、翔は俺の頬を優しく撫でた。


翔「怖がらせてごめん…」


謝るのは俺の方だ。
俺は他人の人格を変えてしまうのかもしれない。
俺が考えも無しに取ってしまう行動で、本来優しい筈の人から、狂気を掘り起こしてしまうのかもしれない。


翔「ごめん、もうしない。しないから、震えないで…」


そう言えば松兄ぃもそうだった。
俺が不意に口にした言葉で、松兄ぃは暴走した。
あんなに優しい松兄ぃでさえ、自分を抑えられなくなって俺を抱いたんだ。


潤に再会した時だってそうだ。
俺を傷付ける事なんて絶対にしない筈の潤が、俺の首を絞めた。


それなら社長もそうなのかもしれない。

だって本当に俺はなついてたんだ。
凄く優しかったし、俺を見る瞳も愛情を感じた。

だけど急に、恐怖を感じたんだ。

あんなに優しかったのに、急に怖くなった。



今の翔もそうなんじゃないのか。

たまに感じる凍りつく様な視線。

あれは、俺がさせているんだろうか。


俺は、他人の人格を変えてしまうのか。




翔は、俺が側に居ると、狂ってしまうんじゃないだろうか。




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