
不透明な男
第13章 胸裏
智「やらしい事考えてたんでしょ…」
翔を下から覗き込む。
黒い髪の隙間からチラッと見せた瞳で、翔の目を捉える。
智「おれは殺してって言ったつもりだったんだけど、翔くんは…?」
翔「べ、別に何も」
智「嘘付くの下手なんだよ…。翔くんのえっち」
翔「え、えっちて」
智「真っ赤じゃん」
バチッと翔は両手で自分の頬を挟んだ。
智「ふふっ、何やってんだよ。そんな強くしたら痛いでしょ?」
動揺する翔は面白かったけど、ちょっと可哀想だったかな、と翔の頬を撫でてやった。
智「全くもう、意味分かんないよ(笑)」
顔を赤らめ動揺する翔を見るのが楽しかった。
ああ、この姿、また見れたなとなんだか嬉しかったんだ。
智「ほんと、翔くんて面白いよね」
俺は翔に怖がられてた訳じゃ無かった。
嫌われてたんじゃ無かったんだと、ほっとしたんだ。
智「かーわい」
心の声が出たっぽい。
何故だかそんな台詞を吐き、俺は翔を抱き締めた。
嬉しいあまり、俺の手が自然と翔を包んだんだ。
俺より大きい翔の首に顔を埋めて、むぎゅむぎゅと翔を抱き締めたんだ。
翔「智くん…」
智「ふふっ、なに?」
無邪気に抱き付く俺を翔が見つめる。
その顔は、さっきまでの恥ずかしそうな顔とはうって代わり、ほんの少し、怖いと感じる程の表情をしていた。
智「翔くん…?」
翔「俺が、何故貴方を見ていたか分かる?」
智「え…」
翔「5年も前から、どうして貴方だけを見ていたか、分かってやってるの?」
智「どうしたの… なんか、怖いよ?」
急に空気を変えた翔が少し怖くなった。
あの、たまに感じたゾクッとする視線。
それを今、目の前で翔はする。
翔「離さないよ?」
智「…っ」
離れようとした俺をぎゅっと抱き締める。
翔「前に言ったよね? 貴方は無防備過ぎるって…」
病院の屋上で言われた気がする。
確かあの時も俺は、翔をからかったんだ。
高い所が怖くて怯える翔に意地悪をして、楽しそうに笑った。
智「ん……」
今思えば、翔にキスをされそうになったんだ。
その時は松兄ぃが来て、そんな事には至らなかったけど。
でも確かに翔は、俺にキスをしようとしていた。
その理由は今でも分からないけど、翔は今、俺に唇を重ねている。
