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不透明な男

第13章 胸裏



ポンポンと頭を撫でながら背中を擦ってやると、翔は落ち着きを取り戻した。

泣き止んだ翔は少し恥ずかしそうに、もう大丈夫、と言った。


智「ん…。じゃあ、何? おれ、翔くんに酷い事した訳じゃ無いの?」

翔「そんなのされて無いよ」


まだそんな事言ってるの?と翔は少し笑った。


智「んん?じゃあなんでおれの事見てたの?」

翔「そっ、それは」


俺は小首を傾げて翔を覗き込む。
翔の好きなそのしぐさで、キョトンとした顔をしてやった。


翔「なんで分かんないかな…」


頬を赤らめ、翔はそっぽを向いた。
なんだか恥ずかしそうだった。


智「え、なんなのその態度」

翔「へ」

智「なんでそんな恥ずかしそうなの?」


恨みも憎しみも無いんだろ?
てことは、いつもの翔の笑顔は嘘じゃ無かったんだ。
その、照れた様な赤い顔も芝居じゃ無かった。


智「翔くんてさ、おれと話す時、いつも赤い顔してない…?」

翔「えっ、い、いつもなってるっ?」

智「ほぼ毎回だよ」


なんだよ、今頃気付いたのか。


智「しかも、いつもなんか心配そうな顔するしさ」

翔「ああ、それはするでしょ」

智「なんで?」

翔「なんでって貴方」


え、本当に分からないの?と眉を歪ませた。


智「や、だって。こんなの只のストーカーじゃん」

翔「すっ、ストーカーっ!?」

智「だってそうでしょ。なんかやたらとそこら辺にいるし、視線はずっと着いてくるし」

翔「う」

智「おれ怖かったんだよ?」


ごめんなさいと、翔は小さくなった。


智「挙げ句家の前で張り込んでるしさ。怖くて帰れないじゃん」

翔「気付かれてないと思ってたから…。そっか、怖かったんだ…」

智「そりゃ怖いでしょ。殺されるって思っても仕方なくね?」

翔「ですよね…」

智「紛らわしいのはそっちだ、ばーか」


恨まれてないと分かったら安心した。

なんだかちょっと嬉しくて、少し意地悪してやりたくなる。


智「翔くんは何を誤解してたの?」

翔「えっ」

智「早くヤッてって、一体なんの事だと思ったの?」


俺が動くと、ボタンの外れた襟がゆらゆらと揺れる。

ゴクッと生唾を飲む翔の心臓の音が聞こえそうだ。



今まで俺がどんな不安だったと思ってたんだ。


ちょっとくらい、意地悪させろ。




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