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不透明な男

第12章 惑乱


青『移動させましょう』


青年がチラッと隣の部屋の金具に目をやる。


『あれは駄目だろう。傷が付く。社長の怒りを買うぞ』

青『今日はヤられる方じゃないんですよ。ほら、痛くない様に、いつもの手錠じゃなくて布がある』

『まあ、お前が責任者持つならいいが。そっちの方が燃えるし』


なんだ…?
俺を助けに来てくれたのかと思ったが、違うのか?

それに青年もこんな事をされていたと言うのか?

だから、もう来るなって、あんなに必死に言っていたのか。


俺は気付くのが遅かった。遅すぎたんだ。
青年はこうなる事を恐れて、俺に忠告をしてくれていたんだ。


青『そろそろ社長が出てきますよ。準備、しておいた方がいいんじゃないですか?』


この子は僕に任せて、貴方達は社長の準備をと、青年が指示を出した。


腕を解放された俺は、下ろされたジーンズを直した。
そんな俺の手を掴むと、手首に布を巻こうとした。


智『な、なんでこんな事…っ』


この青年も敵なのか、そう愕然として涙を溜めた瞳を向けた。
そんな俺の耳に吸い付くかの様に青年は顔を近付け、そっと耳打ちした。


青『…逃げるよ』

智『え?』


キョトンとする俺の胸元を閉じると、チラッと後方を覗き、男達の意識がこちらに向いていないのを確認すると俺の手を取った。


青『忍び足で、急いでね』

智『う、うん』

青『いくよ…』


俺は青年に手を引かれるまま、青年の真似をして腰を屈め走り出した。

玄関に着くと、靴を持ち、音を立てないよう最新の注意を払ってドアを開ける。



早く出なきゃ。

こんな所見つかったらただじゃいられない。



社長の本質なんて何も知らなかった俺でもそう思ったんだ。

青年の恐怖なんて、俺に比べたら想像も出来ない程だったに違いない。



ドアを開けて俺達は飛び出した。

だが、気が急りすぎて、ドアをきちんと閉めなかった。

開けたドアの隙間から逃げ出し、手を離したドアは、ゆっくりと閉まっていった。



廊下の角を曲がる頃には、ガチャンと、小さな音が聞こえたんだ。





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