
不透明な男
第12章 惑乱
用の終わった社長はニコッと笑い、さあ行こうと俺を促す。
智『何処に行くの…?』
社『君がまだ知らない所だ』
ニヤリと笑う社長が少し怖くて、車窓の外に目をやる。
なんとなく、見た様な景色が流れていった。
智『僕、今日は早く帰らないと』
社『着いたぞ。さあ、降りようか』
いつの間にか流れる景色は止まっていた。
窓からぐるりと周りを見渡すと、そこには見た事のあるマンションがあった。
智『ここは…?』
その建物は、いつだったかあの青年が入っていったマンションだった。
降りるのを渋る俺に、社長は不適な笑みを浮かべながら言う。
社『聞きたい事があるんだろう?中で、ゆっくり聞こう…』
その笑みに嫌な寒気を覚えた。
ガチャッとドアが開くと、俺はデカイ男に引きずり降ろされる。
社『この子は特別なんだ、乱暴に扱うな』
よろける俺を社長が支えた。
俺が社長を見上げると、そこには黒い瞳をギラギラと輝かせた顔があった。
社『すまなかったな。さあ、行こうか』
声も出なかった。
その瞳が怖くて恐ろしくて。
この先に何が待っているんだろうと、恐怖で足も上手く動かせなかった。
デカイ男が俺の脇を抱え、反対側では社長が俺を支える。
後ろからもう一人の男に背を押され、俺は、固まってしまった足を無理矢理動かした。
社『着いたぞ』
社長に顎で促される前に、デカイ男はドアの鍵を開ける。
取り囲まれる様にして入った玄関で手早く靴を脱がされた俺は、そのまま部屋に上げられ廊下の突き当たりのドアをくぐった。
智『なにここ…』
ドアの先に入ると、一瞬で空気が変わった。
コンクリ打ちの壁のせいか、冷たい空気が身体を襲った。
社『洒落ているだろう?』
確かにデザイナーズマンションにでもある様な内装ではあるが、ゆっくりと話をする様な、そんなくつろげるような空気は少しも感じられなかった。
天井からぶら下がる、何かを引っ掛ける為に作られたような鉄のフック。
途切れたコンクリ壁の奥に見える薄暗い部屋。
その薄暗い部屋に置かれている大きなベッドには、怪しげな灯りが差している。
それを見ても、何かがおかしい、そんな事しか思わなかった。
これから何が起きるのかなんて、想像もつかなかったんだ。
