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不透明な男

第12章 惑乱


B「どういう事だよ。お前は、何も悪い事なんて」

智「おれのせいなんだよ」

A「お前は何も知らなかっただろう?」


社長がどういう人間かなんて、当時のお前は知らなかっただろと、二人は俺を宥める。


智「でも、もう会えないんだよ?」

A「誰に…」

智「あのお兄さん。もう、会えないんだよ。おれが、あのお兄さんを…」


ゴクッと生唾を飲む音が聞こえる。


智「殺したんだ」


今度は、ヒュッと息を飲む音が聞こえた。


智「おれのせいで、もう、あの人には会えないんだ」

B「ま、待て…、何を、言ってる…」


頭が混乱しているのだろう。
額に手を添えながらしかめっ面をしていた。


智「あの日、さ。おれを、助けに来てくれたでしょ」

A「ああ…。俺達が止めるのも聞かずに車に乗って出て行った」

智「…あの日、何があったか、知りたかったんでしょ?」

B「何があった…?」


教えるから急かさないでと、俺はグラスに入った酒を一口飲んで息を整えた。

ふぅっと肺から空気を吐き出すと、大きく息を吸い、口を開く。


智「おれの親が急に居なくなっちゃってさ」


ああ、確かに養子にする話があった時に、いつの間にか消えてしまったと噂が出ていたなと、二人は過去を思い返した。


智「最後におれの親を見たのが、社長の車に乗り込む姿だったんだよ。あの、蝶のエンブレムのついた車にさ…」


だからあの写真に写っていた車に反応したのかと、二人は納得した。


智「その前に、もう社長に会うなって親に言われてたからさ。居留守とか使ってたんだけど、あの車に乗ったきり親は帰って来なくなっちゃって」

A「ああ」

智「だから、聞こうと思ったんだ。いつもなら迎えを無視して家に隠れてたのに、その日はインターホンが鳴って、玄関に出たんだ」


帰って来ない親を心配するのは当たり前だった。
しかもあの車に乗ったんだ。
俺が関係している事は間違いなかった。

会うなと言われてたけど、会わずにいられなかった。

まだ少年だった俺は、社長の術中に嵌まったんだ。


智「皆の忠告も聞かないで、おれは…」


バカだったんだ。




まんまと、嵌められた。





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