
不透明な男
第12章 惑乱
静寂に包まれた。
“殺して?”その言葉を発した途端に空気が張りついた。
智「聞いてた?」
顔を上げて二人を見れば、その顔は固まっていて身体も微動だにしなかった。
まるで静止画のような二人が可笑しくなって、俺はふふっと笑った。
智「しっかりしてよ(笑)」
B「いや…、しっかりって、お前の方だろ」
普段可笑しな事ばかりしているBは、珍しく真面目な顔をしていた。
智「してるよ。だから、言ったんだよ」
B「俺も考えなかった訳じゃねえよ。事と場合によっちゃ殺っちまうかって思ってたからな。だけど、お前がまさかそんな物騒な事考えてるなんて思わなかったからよ…」
智「あれ、もしかして勘違いしてない?」
B「え?」
もっとちゃんと聞いとけよな、結構勇気出して言ったんだからと、苦笑いをしながらもう一度はっきりと伝える。
智「社長じゃないよ。おれだよ」
B「は?」
智「だからおれ。おれを、殺して欲しいんだ」
Aは分かっていたらしく、静かに溜め息を吐いた。
身を乗り出して俺の言葉を聞いていたBは、またもや静止画のように固まってしまった。
智「もう…、コイツなんとかしてよ。話が進まないじゃん(笑)」
苦笑いをしながらAにチラッと目配せをする。
俺と目が合ったAは、呆れた顔をしながらもう一度溜め息を吐いた。
A「…なんでそんな事思うんだ?」
智「間違いだったんだよ」
A「間違い?」
智「そもそもおれは、生きてちゃいけなかったんだ」
また俯いてしまった俺の隣からは、二人が心配そうに覗く。
智「ああ違うな。産まれちゃいけなかったのかな」
A「どういう事だ」
智「とにかく、おれはいちゃいけなかったんだ。おれさえいなけりゃあんな事には…」
あんな事?と静かな声を出して俺に聞いてくる。
ちゃんと答えなきゃ。
コイツらには真実を話さなきゃならない。
智「全部おれが悪いんだよ…」
許してもらおうなんて思ってない。
許される話でもない。
だからせめて償わせてくれ
結局逃げるだけの、卑怯な奴になってしまうけど
