
不透明な男
第12章 惑乱
智「おれは、心配なんてして貰えるような人間じゃない」
さっきまで笑っていた俺が、俯いて苦笑いしながら話し出す。
その光景に、二人は空気の異変を感じた様だ。
A「急にどうした…」
智「急じゃない。言わなきゃ、話さなきゃってずっと思ってたんだ」
B「何を」
俺はどんな顔をしていたのだろう。
二人が俺を心配そうに覗く。
智「あの人の事。俺を守ってくれた、あのお兄さんの事だよ」
同時俺は、あの青年の事を『お兄さん』と呼んでいた。
名前を聞いた事があったのだが、教えてはくれなかった。
僕が君と仲良くしてるなんて社長にバレたら大変だからねと、笑顔で冗談ぽく俺に言ったんだ。
だから、名前を呼んじゃいけないよ、と名前を教えてくれなかった。
智「あの人の事、聞きたかったんでしょ?」
心配そうな表情から、不安そうな顔に変わった。
A「話してくれるのか…?」
智「うん…」
俺の返事を聞くと、二人は息を飲んだ。
たぶん嫌な予感しかしないのだろう。
チラッと見たその顔は、緊張で包まれていた。
智「でも」
なんだ?と張り詰めた空気を割ってAが聞く。
智「この話を聞くなら、ひとつ、お願いがあるんだ」
B「願い?」
俺は、あまり暗くならない様に話そうとしたが、俯いた顔はどうしても上げられなかった。
あぐらの上で指を弄り、そこに目線を落としたまま話す俺を、二人は只黙って見ていた。
智「おれが話終えたらさ」
こんな願いも卑怯だよな。
智「ずるいって分かってるけど」
こんなのでチャラになんてなる訳無いのに。
智「でも、もうどうしていいか分かんなくてさ」
償う方法がこれ以外に思い付かないんだ。
智「おれの為に、犯罪者になってくれる?」
B「は?」
そりゃ嫌だよな。
なんでこんな俺なんかの為に犯罪者になるんだよ。
智「重り付けて、埠頭から沈めといてくれれば見つかんないみたいだから」
A「何の話だ…」
8年経っても見つからないんだから、その方法なら大丈夫だろ。
智「殺して?」
逃げてばっかでカッコ悪いな。
だけど、それももう今日で終わりにしよう。
というか
終わらせてくれよ
