
不透明な男
第12章 惑乱
智「メシ」
一言だけ放つ俺を男はじっと見つめた。
少し驚いてキョトンとしている。
智「喰わせてよ。腹へった」
玄関に佇むソイツを押し退け俺は部屋に上がる。
B「おいおいおいちょっと待て。どうした?」
勝手に部屋に上がり込む俺の腕を掴む。
智「だから、腹がへったの」
A「ん?成瀬か?」
奥からAの声が聞こえた。
智「来てたんだ」
A「なんだ?その小洒落たスーツ…」
首を捻って俺を見る。
B「今終わったのか?」
智「うん」
A「…お前今日は一体何処に」
捻っていた首を元に戻し、怪訝そうな顔をする。
智「どこだっていいでしょ」
B「まさか社長と一緒だったとか?」
智「…最初と最後だけね」
A「あ?」
方眉を上げて俺を下から覗く。
智「ほんとガラ悪いよね。いつも思ってたけど、BGって言うよりヤクザみたいだよ?」
A「はああ?」
智「ホラそれ」
立っていた俺は、ソファーに座るAを見下ろしながら言った。
顎でしゃくり、そのヤクザみたいな顔を指す。
A「…なんでそんな顔してんだ」
相当仏頂面だったんだろう。
態度の悪さに怒るかと思いきや、逆に心配そうな声を溜め息混じりに出してきた。
智「…腹が減ってるからだよ。なんか喰わせて」
B「仕方ねえな。鍋でいいか?」
どうせ今から作ろうと思ってたんだと、Bは冷蔵庫を覗く。
B「ああっ」
A「何だ」
B「大事なモンがねえ。ちょっと買ってくる」
すぐ戻るから待っとけと、Bは財布を持っていそいそと出て行ってしまった。
途端に部屋は静まり返る。
その居心地の悪い沈黙をAが破る。
A「で、それどうした。朝はそんなの着てなかっただろ」
俺をチラッと見てAは言う。
智「…着替えたんだよ。汚れたから」
スーツのまま押し倒され、俺の腕が解ける頃には既に着ていた物はぐちゃぐちゃだった。
シャワーから出ると新しいスーツを渡され、ありがとうと素直にそれを着ると、夫人は目を細めて俺を見た。
やっぱり良く似合うわねと、ニコニコして喜んだ。
社長の待つ車に戻ると、これまた社長も目を細めた。
似合っているなと、俺を舐める様に見た。
だが、こんなスーツでは目立って仕事にならないと、社長は俺を解放したんだった。
