
不透明な男
第12章 惑乱
その後は、自分の気持ちを誤魔化す様に女を抱いた。
只ひたすらに抱きまくった。
もう無理、やめてと身体を震わせ懇願しても止めなかった。
そんな声、俺には届かなかったんだ。
ぼーっとした頭の中を通り抜けてしまって、脳には何の言葉も残らなかった。
「んっ、はぁっ、はぁっ、あ、ああっ」
紅く火照った身体をビクビクと震わせる。
もう何度目だろうか。
「あぁ…っ、ん、も、もう…」
涙を溢した目で俺を見つめ、腕をぎゅっと掴む。
それで、俺はようやく我に帰った。
智「あ…、ごめん。ごめんね…」
「んん…っ、ど、どうしたの…」
俺は女を抱き起こし、向かい合わせに俺の上に座らせる。
智「どうもしないよ…」
俺は顔が見えないよう、女の首に顔を埋めて話す。
智「辛かったでしょ?酷い事してごめんね…」
「辛くなんて…、只、少し驚いただけよ…」
ほら、まだイッてないでしょ?なんて腰を動かしてくる。
その、女なりの優しさに俺は応えた。
智「ん…、夫人は、優しいですね…」
「あら、また敬語に戻っちゃったの?あの話し方、好きなんだけど?」
智「ふふ…、僕、調子に乗っちゃうから駄目ですよ」
どうせもう今日で最後だし、もう今は、いいか…。
「また、乱暴になっちゃう?」
智「そんな事、しないよ…」
「ん…、あ、あっ…」
顔さえ見せなければ、なんとかしのげる。
甘えたふりしてやり過ごせばいい。
「あぁ…っ、あっ、ああっ」
智「ん…」
少し乱暴にし過ぎた。
折角俺に色々教えてくれたのに。
少し申し訳なくて、俺は最後は優しく抱いてやった。
だけど、事が終われば俺は戻るんだ。
智「じゃあ、今日で最後だと聞いてますので」
「約束だから、仕方ないわ…」
智「…では、失礼します」
「ええ…」
あんなに自分勝手に抱いたのに、俺の背中には小さな声が聞こえた。
領くん、ありがとうと。
そんな事、言ってもらう筋合いなんて無い。
そんな資格は何処にも無いんだ。
俺は利用されたけど、俺だって利用したんだから。
