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不透明な男

第11章 背徳


俺はもうバレているのか?
カマをかけているだけかもしれない。

自信に満ちた表情をニヤつかせながら俺に再度確認を取ってくる。


A「本当は智なんだろ?」

智「だからさっきから何を言って…」

A「意地を張るなら無理矢理吐かせる事になるが、それでもいいのか?」


そうだ、俺にだって意地がある。
たとえバレているとしても、自ら認めるなんて出来るか。


A「そっちがその気なら俺だって手加減しねえ。吐くまで追い詰めてやるよ…」


俺のキッと睨んだ目を見据え、胸ぐらを掴むと首に腕を押し付け俺の呼吸を遮ってくる。


智「う…」

A「空気が欲しいか?」


ニヤリと笑うと、俺に唇を押し付け、俺の肺に空気を送り込んでくる。


智「けほ、けほ…っ」

A「正直に話すか?」

智「何の話だ…」


そうきたか、と今度はしっかり片手を開いて俺の喉仏を押さえ付ける。


智「く…」

A「わざわざ社長に近付く位だ、お前だって何かやりたい事があるんだろう。こんな所で死ぬハメになってもいいのか?」

智「頭、おかしいんじゃねえの…。妄想も程々にしとけよな…」

A「ふうん…。こんなんじゃ効かねえって事か。だったら…」


後悔しても遅いぞと、前置きをすると勢いよく俺のネクタイを引き抜いた。


A「これなら、正直になれるだろ…?」


ボタンなんて、優しく外すどころか思い切り引っ張られ、ブチッと音を立てて遠くに弾け飛んだ。


A「泣いて謝るなら今だぞ」

智「誰が泣くかよ」


ふふっと鼻で笑うと俺の首に顔を埋める。


智「…何笑ってんだよ」

A「だってその話し方、成瀬じゃねえよ。本性が出てるぞ…」


本性?そんなものコイツに分かってたまるか。
俺にだって分からないんだ。


A「言わないつもりなら、お仕置きしちゃうぞ?」


くっそ。

いちいちムカつく野郎だ。
こうなったら何がなんでも口を閉ざしてやる。



たとえコイツが気付いていたとしても。

俺が誰なのか分かっているとしても。

俺さえ話さなければ、俺の頭の中はコイツには分からないんだ。



そのお仕置き、耐えてやる




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