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不透明な男

第11章 背徳


部屋に重苦しい沈黙が続く。
それに耐えきれなくなったらしいAは、おもむろに口を開いた。


A「で、話を戻すが、お前はなんの為に偶然こんな所に入ったんだ?」


さっきまで真面目な顔をしていたのに、既にAの顔はニヤニヤと笑っていた。

…俺だって負けてられるか。


智「つけてたんなら気付いたでしょう?貴方逹の他にもう一人居た事を」

A「ああ、なんだあいつ。ストーカーか?」

智「似たようなモンですよ。だからここに逃れて来たんです」


未だ不信な表情を浮かべるAを地下室へと誘導した。


智「ほら、この部屋は綺麗でしょう?ここで、アイツが諦めるのを待ってたんですよ」


ほほう、なるほど確かにお前のスーツだなと、ハンガーに掛かる俺のスーツを手に取ってAは頷いていた。

ふぅ、とこっそり息を吐く俺を振り返ると、まだ諦めないぞとでも言う様にAは口を開いた。


A「だがしかし、だがしかしだ。本当にこの家は偶然なのか?」

智「だからそう言ってる…」

A「確かにストーカーは本当かもしれない。だけどだ。わざわざこの家を選ぶ必要は何処にあった…?」

智「わざわざなんて…、だから偶然ですよ」


グイッと俺に詰め寄るAの迫力に圧されて、俺はソファーへ倒れ込む。


A「この顔…、似てるなんてモンじゃない。まるで同一人物だぞ…」

智「他人のそら似ってヤツですよ…」


至近距離まで詰め寄ると、完全にソファーへ横たわった俺の頬を掴み、まじまじと俺を見た。


A「この髪だって明るく染めれば」

智「僕はずっとこの色で過ごしてきましたから」


気迫が凄い。
この圧力を上手く交わす事が出来るだろうか。


A「まだシラを切る気か?」

智「シラも何も僕は」


思わず目を反らしてしまった。
その俺の横顔に、ふふっと笑う鼻息が当たる。


A「どうやら俺の勝ちだな」

智「何が…」


反らした顔を掴んで、正面を向かせられた。
Aの真っ直ぐな目が俺を捉える。


A「俺が吐かせてやるよ。智…」


俺の名を呼んだ。

俺の正体なんて最初から知っていたとでも言う様に、俺の名を呼ぶAには躊躇いが見えなかった。



コイツはやはり一枚上手だった。

俺の嘘なんて、簡単に見破ってたんだ。




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