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不透明な男

第11章 背徳


智「あの子?…って、あの写真の少年ですか?」


取り敢えずすっとぼけてみた。


A「正確には、お前に瓜二つの少年、だがな」


瞬きもしないで自信満々に俺を見据えてくる。


智「あ、あ~そうだったんですか。僕は、偶然入っちゃって」

A「偶然とは?」


だから俺はなんなんだ、小学生か俺のバカと、自分に呆れながらも口を止める訳にはいかなかった。


智「誰の家かも知らずに入ってしまいまして…ね…」

A「あの子の家だと知らなかったと言うのか?…まあ、今は社長の土地だがな」

智「え…社長の…?」

A「…気になるのか?」

智「い、いえ、別にそういう訳じゃありませんけど…、だって、ここはあの子の家だって」


そりゃ気になるだろう。当たり前だ。
だけど、そんな素振りを見せる訳にもいかず俺は興味の無い振りをしようとした。

だけど、やはりそれよりも『聞きたい』気持ちが勝ってしまったようだ。


A「いつだったかな…、あの子の親が居なくなって…。それからすぐだ。データにこの土地が私有地として乗る様になったんだよ」

智「どうして」

A「あの子は結局養子になったのかな…。だから土地も社長の物にしたんだろうか、それは分からないが」



養子…だと?



A「確か、金を積んで何度もこの家に足を運んでいた。その度断られてたんだろうな。だんだん鞄が大きくなっていってな…。でも、いつしか行かなくなったな…」

智「鞄が大きく…?」

A「両親がなかなか頷かないから、どんどん金を増やしたんだろう。…でも、行かなくなったと思ったら、親が居なくなったみたいだと噂が流れる様になって。土地は社長の物になるし、あの子の姿もパッタリ見かけなくなったし」


俺の親が居なくなった原因はこれか…

やはり社長が俺の親の居場所を知っているんだ。


A「あの子を最後に見たのも、俺がダチを止められなかった日と同じだ。あの子を助けに行って、…何が、あったんだろうな…」

智「ええ…」

A「なあ、成瀬。こんな話、おかしいと思わないか…?」


まるで俺を当事者の様に見てくる。

過去の出来事を俺に話して聞かせているのはAなのに、その目はまるで、教えてくれ、そう言っている様に見えた。


こいつもまた、俺のように過去を探すひとりなのかもしれない。



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