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不透明な男

第11章 背徳


視線が増えた。

家に向かって歩く俺の背には、刺さる視線が増えていたんだ。



ちきしょう、つけてやがるな



ひとりは相変わらず翔だが、もうひとりは…。

これは…Bか?
Aならまず気配も視線も上手く消すだろう。
俺にバレる位だからきっとBだな。

まぁ、翔とBならなんとかなるかと、後ろについてくる視線に気付かない振りをしたまま角を曲がる。



…ふふっ、キョロキョロしてる



離れた位置にいた二人は、それぞれの場所でキョロキョロと俺を探していた。

全くバカだな。お前らなんかチョロいんだよと、俺は遠回りをして進路を変更した。


今撒いた所で結局は家の前に翔がいる事は分かっていた。

だから俺は、古びた昔の家に行く事にしたんだ。



ガチャッとドアを開けると、ギィ…と蝶番の錆びた音がする。
その埃の被った部屋は、どこか懐かしく、どこか寂しくもあった。



汚ねえな…

少し片付けとくか



どうせ翔にもバレてるんだし、中の様子が変わった所で別にいいだろうと、少し開き直りながらテーブルの上に置きっぱなしだった薬や水を処分した。

その捨てたゴミ箱から視線を外すと、黒く光った靴が目に入った。



…!



俺が静かに顔を上げると、前には目を細めて仁王立ちした男が立っていた。


A「こんな所で何してる…?」


驚いた俺は、息が止まりそうになった。


智「あ…、流石ですね。全く気付きませんでしたよ」

A「当たり前だろう。俺はプロだ」


そうだった、Bには気付いたがAには気付かなかった。
Aは居なかったんじゃなくて、俺にバレなかっただけだ。


智「趣味が悪いですね。ずっとつけてたんですか?」

A「まあな」


そんな事よりも、Aはそう言うと、少し怖い顔をしながら俺を見据えてこう言った。


A「質問に答えろ。どうしてお前がここにいる?ここは、あの子の家だろう…?」


なんで知ってるんだ。

この家に誰が住んでいたか、何故お前が知ってるんだ。



俺はバカなんだ。

事前に計画を立てていればなんとか遂行出来る。

だけど、こういう不測の事態というヤツにはめっぽう弱い。



なんとか上手く言い逃れをしなければ。



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