
不透明な男
第11章 背徳
社長の部屋を出ると、緩んだ首元をキュッと絞める。
そんな俺の後ろから声がした。
A「また随分と長かったな」
腕を組み、仁王立ちをして俺を待ち構える。
まるで罪を問い詰める刑事の様だ。
智「そうですか?」
B「あ…、成瀬お前…!」
俺は急に壁に押し付けられた。
いわゆる壁ドンと言うやつだ。
智「な、なんですか急に…」
B「これ、どうした…?」
せっかく絞め直した俺の首元をまた緩められた。
グイッと襟を開かせると紅い痕が首から覗く。
智「ああ…、社長じゃないですよ」
A「本当か?」
智「…今、付けられた様な痕でも無いでしょう?」
ほら見てみろと、俺は自ら襟を広げた。
A「ああ、違うならいいんだ…」
智「まさか、僕の心配でも?」
A「当たり前だろう。この間も様子がおかしかったし」
智「僕は大丈夫ですよ」
B「何を根拠に…」
二人はヘラヘラ笑う俺を見て溜め息を吐いた。
智「僕は、社長の本性知ってますから…」
A「何故そんな事…、お前、やっぱり」
智「何故って、この間二人が教えてくれたじゃないですか」
忘れたんですか?と俺はキョトンとして見せた。
智「その彼と同じ道は歩みませんよ…」
そうだ、俺だっていつまでも何も知らないガキじゃない。
A「だが、最近のお前はなんと言うか、こう…」
B「そうだよ、いつもと雰囲気が」
雰囲気?
そりゃ変えてるさ。
智「僕はいつもと同じですよ」
只、社長の前だけで、ここでは戻そうと思っていたが戻しきれなかったみたいだ。
さすが腕利きだけあって目敏いな。
B「そうか…?」
媚びを売っている訳では無いが、油断させなきゃならないんだ。
その為には、俺は社長に従順だと思わせる必要がある。
智「気のせいじゃないですか?」
従順だとは思わせるが、何も知らない素振りもしなきゃならないんだ。
結構難しいんだぞ。
A「お前、何か隠してないか…?」
智「一体何を隠すと言うんですか」
A「俺の目を誤魔化せると思うなよ?」
智「ふふっ、怖いですね…」
え、え?一体何の話だよと狼狽えるBをよそ目に、Aは俺をじっと見つめていた。
