
不透明な男
第11章 背徳
夕方になると、出先から戻ってきた社長は手が空いたのか俺を社長室に呼びつけた。
社長にソファーへと促され、向かい合わせに座ると暫く談笑をする。
社「朝、お前が捕まえた男逹だが」
智「はい」
社「確かにライバル社の者だが、狙いは私では無かったようだ」
智「では何の目的で」
社「どうやら成瀬、お前らしい」
智「は?」
出された紅茶をカチャンと置き、固まったままポカンとした俺を見て社長は笑う。
社「前に言っただろう。お前を欲しがる奴らがいると」
智「え…」
俺は今朝、複数の男逹に襲われた。
俺にそっと忍び寄り、俺を連れ去ろうとしたんだ。
智「確かに聞きましたけど、でも、何故僕なんです?」
社「まだ分からないか?」
きょとんとしながら頷く俺の隣に社長は座り直した。
社「昨晩、女を抱いたのか?」
俺の首筋からチラッと見えた紅い痕を社長の指が撫でた。
社「お前には女がいるのか」
智「いませんよ、そんなの…」
社「じゃあ遊びか」
智「人聞きが悪いですよ社長」
社「ははっ、お前もなかなかやるんだな」
社長はふぅ、と一息つくと、俺の首元を緩め、紅い痕を晒け出す。
社「お前を欲しがる理由は色々とある、そう言っただろう」
智「色々…?」
社「この痕を残した女と同じだ…」
眉を潜める俺を見て、社長は少し息を荒くした。
智「僕はそんな気は無いですよ…」
社「お前はそうでも、周りが放っておかない」
智「社長…」
社「そのライバル社の社長が言ってきたんだ。腕利きを三人くれてやるから、お前をよこせとな」
智「そんな…」
社「心配するな、勿論すぐに断ってやった」
俺はホッと安心した様な顔を見せる。
智「あ、ああ、良かった…」
社「ははっ、私がそんなものでお前を売る筈が無いだろう」
智「ふふっ、社長に仕えると決めてるんですから。ヒヤヒヤさせないで下さいよ」
社「ほう、それは本当かね」
智「当たり前でしょう。こんな僕を拾って頂いて…、社長の元を離れる訳ありません」
社長がごくんと生唾を飲む音が聞こえた。
智「僕は、社長の為なら何でもしますよ…」
社「何でも…?」
智「ええ、何でも…」
鳥肌の立つような生温い空気が俺の頬を撫でる。
この空気に慣れるには、時間がかかりそうだ…
